深夜の終電、取り残された男

 サラリーマンの田中は、今日も上司の無理な要求に追われ、疲れ果てていた。時計を見れば、もう11時を過ぎている。辺りは真っ暗で、駅の改札は閑散としている。


田中は急ぐように改札を抜け、ホームへ向かう。間もなく、最後の終電が入線してきた。ガラガラの車内に飛び乗り、ついに一息つくことができた。だが、疲れと睡魔に負けてしまい、うたた寝してしまった。


目を覚ますと、電車は終点に到着していた。ホームには誰もいない。辺りは不気味な静寂に包まれ、真っ暗闇だ。田中はドアを開けようとするが、施錠されていた。窓の外を見れば、鉄格子に囲まれた不気味な空間が広がっている。


恐怖に震える田中は、助けを求めて叫ぶが、誰も返事をしない。車内のポスターに目を向けると、そこには失踪者の写真と、不穏なメッセージが書かれている。


「この駅から抜け出すには、早朝の鐘の音を聞くこと。生き延びたいなら、一人で出口を探すな。」


絶望に打ちひしがれながらも、田中はポスターの言葉を信じ、朝の訪れを待つことにした。


朝焼けと共に、どこからともなく鐘の音が響き渡る。田中はその音に導かれるように、薄暗い通路を進む。そして、ついに出口を見つけた。


しかし、振り返ると、駅舎はすでに姿を消している。辺り一面、茫漠とした闇が広がっている。田中は、自分がどこにいるのかわからなくなった。ただ、永遠にこの場所をさまよい続けるしかない。


田中の絶望の叫び声が、朝の光に虚しく響き渡っていく。

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