ビルの谷間の山姥

 かつて深い山奥に住まう存在だった山姥。しかし、時代とともに開発が進み、彼女の居場所は狭まっていった。今は都会の片隅で、ひっそりと暮らしを続けている。


窓からは、煌めくネオンが見える。かつての見渡す限りの山々は、高層ビルに遮られてしまっている。山姥は、夜になるとベランダに立ち、かつての住処を懐かしみながら、涙を流す。二度と戻れない、あの懐かしい山々。


ある夜、偶然出会った少年との出会いが、山姥の心に光を与える。少年は優しく話しかけ、山姥の話に耳を傾けてくれた。山姥は、初めて自分の存在を認めてもらえたような気がした。


しかし、その幸せな時間は長くは続かなかった。少年が引っ越すことになり、再会することができなくなってしまう。山姥は、毎晩ベランダで少年の帰りを待ち続けたが、二度と姿を見ることはなかった。


やがて、孤独に包まれた山姥は静かに息絶え、その霊は、かつての住処である深い山々へと帰っていったのだという。



物語は全てフィクションです。

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