海辺の闇に潜むもの

 満月が夜空に煌めき、波の音だけが響く静かな夜。防波堤に腰を掛け、釣り糸を垂らす二人の男。いつものように、たわいもない話に花を咲かせながら、静かに時を過ごしていた。


「最近、この海で変な噂が広がってんだってな。」


Aが、どこか不気味な笑みを浮かべながら話しかける。


「そういや、聞いたことがある。幽霊船が出るって話だ。」


Bも、少し背筋を伸ばしてAの方を見る。


「へえ、幽霊船か。そんなもん、ただの噂だろ。」


そう言いながらも、Bの心には一抹の不安がよぎる。


しばらくして、二人の釣り糸に反応が来た。同時に、二人の顔には笑顔が戻る。しかし、その笑顔は、すぐに恐怖に変わった。


釣り上げられたのは、見たこともない形の魚。銀色の鱗が光り、鋭い牙がむき出しになっている。まるで、深海の怪物のような姿だった。


「なんだこりゃ!」


Bが声を上げる。


その瞬間、海面が荒れ始めた。轟音を立てて波が打ち寄せ、二人の足元を洗う。そして、突如として、二人の目の前に巨大な影が現れた。


それは、まるで船のような形をしていたが、その姿はぼやけていて、実体があるのかないのか分からない。船体からは、不気味な光が漏れており、二人の心を震わせた。


「幽霊船だ!」


Aが絶叫する。


二人は、恐怖に打ちひしがれ、その場から逃げ出そうとする。しかし、どこかに足を取られ、身動きが取れない。


その時、幽霊船から、甲高い声が聞こえてきた。


「この海から出ていけ!」


その声は、二人の心に突き刺さり、全身を震わせた。


恐怖に耐え切れなくなったAとBは、気を失ってしまった。


翌朝、二人は浜辺で目を覚ました。昨日の出来事は、まるで悪夢のようだった。しかし、二人の手に握られていたのは、昨日の夜釣った奇妙な魚。


二人は、あの夜の出来事を決して忘れることはないだろう。

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