見知らぬ世界

 あの日、いつものように車を運転していた。目的地まではあと少し。いつもの道を走っていたはずなのに、いつの間にか見知らぬ風景が広がっていた。地図を確認しても、ここがどこなのか全く分からない。


焦りを感じながら車を走らせると、街並みはどこか懐かしいような、でも確実に見たことのないものだった。通り過ぎる車のナンバープレートは見たこともない文字列。信号の色も、赤と緑ではなく、青と黄色だった。


これは夢だろうか?それとも、自分がどこかへ飛ばされてしまったのだろうか?


恐怖と好奇心で心が揺れ動きながら、車を運転し続けた。道端には見慣れない植物が咲き誇り、空には見たことのない形の雲が浮かんでいた。


日が暮れ、辺りは暗くなった。街灯の光は、どこか不気味で、まるで異世界のようだ。私は車を停め、しばらくの間、外を眺めていた。


その時、ふと、子供の頃に読んだ絵本の一節を思い出した。「迷った時は、北極星を見上げなさい」。


すぐに車を降り、空を見上げた。すると、そこには見慣れた北極星が輝いていた。わずかな希望を感じ、私は車を再び発進させた。


しばらくすると、かすかに車の音が聞こえてきた。そして、見慣れた街並みが現れた。私は思わず車を停め、外に出て深呼吸をした。


「帰ってきた…」


安堵感と同時に、不思議な感覚に包まれた。この世界が夢だったのか、それとも本当に別の世界に行って来たのか。


再び車を運転し始めたが、どこか現実感が薄い。街並みは同じはずなのに、何かが違う。信号の色は、さっきまで青と黄色だったのに、今は赤と緑に戻っていた。


もしかしたら、私はまだ別の世界にいるのかもしれない。それとも、この世界は、私が見た異世界と少しだけ重なり合っているのかもしれない。


そんなことを考えながら、私は車を運転し続けた。

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