夜中の白装束集団と火事のお話

 夜中の静寂を破るように、外から聞こえてくるブツブツとした声。目を閉じても、耳にこびりつくように消えないその声は、まるで悪夢の中でさまよっているかのようだった。僕は2階のアパートの窓から、そっと外を覗いた。


月明かりが薄暗い通りを照らし出し、白い装束をまとった何十人もの人々が、俯き加減で行進しているのが見えた。顔はよくわからない。その薄暗さと、白装束のせいか、まるで霊のように見えた。心臓がドキドキと高鳴る。彼らは何を呟いているのだろう?その言葉は、耳に入ってくるけれど、意味はわからない。ただ、呪文のように聞こえる。

彼らは一軒の家に向かって、まるで吸い込まれるように進んでいった。薄暗い光の中、彼らの背中がどんどん小さくなっていく。彼らの行列が消えた後、残された静けさは、まるで彼らの存在を消し去ってしまったかのように感じられた。

この光景は、毎晩繰り返されるようになった。最初は恐怖を感じていたけれど、次第に興味が湧いてきた。彼らは一体何者なのか。何を求めているのか。家の中で不安を感じながらも、僕はその行列を見守り続けた。なんだか、彼らがいることで、自分の生活に何か特別な意味が生まれるような気がしたのだ。

一週間ほど経ったある夜、いつものように彼らの行列を見ていたが、今夜は何かが違った。いつもと同じように呟きながら進む彼らの姿が、突然、火花を散らすように見えた。次の瞬間、その一軒家から炎が上がり、周囲を照らし出した。火事だ。

驚愕と恐怖が僕の心を掴んだ。人々の声が火の勢いにかき消され、周りは騒然となる。近所の人々が集まり、消防車のサイレンが遠くから響いてくる。けれど、彼らの行列はもう見えない。火の明かりに照らされた空は、まるで異次元に引き込まれるように、狂ったように揺れていた。

火事が収束してから数日間、あの行列は現れなかった。まるで彼らが火の中に飲み込まれてしまったかのように。家の前に残された焦げ跡は、何か大切なものが失われたことを訴えているように見えた。僕の心の中には、あの行列の謎が残り続けた。

彼らは、何を求めていたのか?火事の原因は、彼らに関係しているのか?それとも、ただの偶然だったのか?考えれば考えるほど、その答えは見つからない。

ある晩、火事から数週間が経った頃、僕は夢の中であの行列を見た。彼らは再び白装束をまとい、今度は笑顔を浮かべて僕に手を振っていた…。




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