鳴き声の正体

 まだ僕が小学生だった頃、瀬戸内海に浮かぶある島の祖父の家に、盆の帰省を家族でした時の話。

両親と二人の幼い妹の五人でほぼ半日掛けて辿り着いた。

祖父と祖母は優しく僕たちを迎えてくれて、少し早いけど晩御飯を家でご馳走になることになった。

海の幸や美味しい食べ物を頬張って迎えた夜。いい感じに酔いも回った祖父が、島の漁師にまつわる怖い話を話してくれた。

毎年これが楽しみで、お盆に帰省していた。


祖父は話し出す。

島に住むトクさんという老漁師がいた。ある夜、いつものように漁に出たトクさんは、沖合で奇妙な鳴き声を聞いたと言う。それは、まるで女性の悲痛な叫び声のような、そして同時に、何かが水中を這いずり回るような不気味な音だったそうだ。

そして船が大きな手に掴まれたように、ガクンと揺れると、悲痛な叫びと這いずるような音は遠ざかっていったそうな。

恐怖に駆られたトクさんは、急いで港に戻ったが、それからというもの、その鳴き声が耳から離れず、夜も眠れなくなってしまったそうだ。

村人たちは、それは深海に住む妖怪「海坊主」の仕業だと噂し、トクさんはその後、海の近くにも行けなくなってしまったとか。

その夜、布団の中で、僕は真っ暗な海を漂っている夢を見た。

朝になると、布団がぐっしょりする程の寝汗を掻いて目が覚めた。

まだまだ祖父の怖い話は沢山あるので、それは次回お話ししたいと思う。

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