夕暮れが迫る中、風もなく静まりかえった森の小道。新緑が目に眩しい季節だったが、15歳の健太の心はどこか落ち着かない。今日は、クラスの友人たちと、噂の「河童の沼」へ探検に来たのだ。
「おいおい、マジであんなもんいるわけないだろ」
友人たちの言葉に、健太は苦笑いを浮かべた。でも、どこか引っかかるものがあった。地元の古老から聞いた話では、この沼には悪質な河童が住み、人間を水の中に引きずり込むという。
「でもさ、昔っからそんな噂あったよな」
別の友人が、懐中電灯を照らしながら言った。
「ただの噂だろ。怖い話に尾ひれがついて大きくなっただけさ」
そう言いながらも、皆、足早に進んでいく。
沼に近づくと、生暖かい湿気が肌を包み込んだ。水面は、まるで鏡のように周囲の森を映し出している。その光景は、どこか不気味で、健太の背筋をゾクゾクさせた。
「うわっ!」
突然、友人の一人が叫んだ。茂みから現れたのは、血まみれのナイフを持った男だった。男は、形相を変えて友人たちを追い詰める。
「みんな、早く逃げろ!」
健太は、咄嗟に茂みの中に逃げ込んだ。男は、友人を一人ずつ惨殺していく。その様子を、茂みの中から見ていることしかできなかった。
数時間後、警察が到着し、男は逮捕された。男は、この沼で数年前から行方不明になっている少女を殺害し、遺体を隠していたのだという。そして、河童の噂を流すことで、事件を隠蔽しようとしていた。
事件後、健太は心に深い傷を負った。楽しいはずの探検が、恐ろしい殺人事件に巻き込まれてしまったからだ。そして、彼はあることに気づいた。
「河童の噂は、単なる噂じゃなかったんだ。誰かが、意図的に流したんだ」
男は、自分の犯行を隠すために、河童の噂を利用したのだ。そして、その噂を信じていた自分たちを、彼は遊び道具のように扱っていた。
事件から数年が経ち、健太は大人になった。彼は、あの日のことを決して忘れない。そして、噂の恐ろしさを身をもって知った。
「噂は、人を傷つける。そして、人を殺す。」
健太は、この経験を胸に、これからも生きていく。
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