謎の新聞

 毎晩、男の家のポストには、白い封筒に入った新聞が投函されていた。それは普通の新聞とは異なり、紙質も薄く、インクの色もくすんでいた。まるで、どこかの古い印刷所で、手作業で刷られたような粗末な出来だった。


しかし、その新聞の内容は、男をぞっとさせた。そこには、明日の自分が目にするであろう出来事が、まるで昨日の出来事のように克明に記されていた。例えば、「明日の朝、出勤途中にカラスに糞をかけられる」といった些細な出来事から、「職場で上司に叱られる」といった少し深刻な出来事まで、ありとあらゆる出来事が事細かに記されていたのだ。


最初は単なる偶然かと思っていたが、数日後、新聞に書かれたことがすべて現実になったとき、男は恐怖に慄いた。そして、日々、新聞を読む度に、来るべき不幸を予見し、心の底から不安に駆られるようになった。


やがて、新聞に書かれる出来事は、男の身近な人物へと広がっていった。彼の家族、友人、そして同僚。新聞に書かれた出来事が現実となり、彼らが不幸に見舞われるのを、男はただ見ていることしかできなかった。


そして、ついに、新聞には男自身の死が予言された。恐怖に打ちのめされた男は、どうにかこの状況から抜け出そうと、あらゆる手を尽くした。新聞を破り捨てたり、警察に相談したりもしたが、何も解決策は見つからなかった。


そんなある日、男はふと、この新聞がどこから来たのか、なぜ自分にだけ届くのか、ということを考え始めた。そして、ある日、新聞に書かれた古い印刷所に行ってみることにした。


その印刷所は、すでに廃業しており、薄暗い部屋には、古い印刷機が埃をかぶっていた。男は、その印刷機をじっと見つめ、あることに気がついた。印刷機には、奇妙な形の模様が刻まれていた。それは、男が見たことのない、古代の文字のようだった。


意味は解らなかったが、この印刷機が全ての元凶であるのは明らかだった。


男は印刷機を破壊した。そして、その場から逃げ出した。


それからというもの、男の元に新聞が届くことはなくなった。しかし、男は、心の奥底に、一抹の不安を感じ続けていた。未来を予知する能力を失ったことで、彼は、いつ何が起こるのか分からなくなったのだ。


そして、男は悟った。未来を知ることは、必ずしも幸せなことではない。むしろ、未来を知ることで、人は不必要な不安を抱え、心を病んでしまうのかもしれない。



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