スマホの闇

 布団の中、柔らかな温もりに包まれたまま、彼はスマホの画面を見つめていた。外はすでに真っ暗で、夜の帳がゆっくりと降りてきている。彼の指先が画面を滑るたび、無数の投稿が流れ込んでくる。仕事のストレスから解放されるため、彼はこの時間を必要としていた。


「またか…」


画面に映し出されるのは、奇妙な動画だった。薄暗い森の中で、顔のない人間が踊っている。背景には不気味な音楽が流れ、視聴者の心を不安にさせる。彼は思わず目を細めた。何度も見ている動画だが、なぜか引き込まれる。心のどこかで「見てはいけない」と感じながらも、彼はそのまま流し続けた。


だがその直後、画面がフリーズしてしまった。彼の手が震え、心臓が高鳴った。何かが彼を見透かしているような感覚が襲ってくる。彼は一瞬、スマホの画面に映る自分の顔を見た。目が虚ろで、疲れ切った表情をしている。まるで、彼自身が何かに取り憑かれているかのようだった。


良くない予感がした。彼は急いでアプリを閉じ、SNSのホーム画面に戻った。しかし、そこには新たな投稿があった。タイトルには「あなたの個人情報が流出しています」と書かれていた。彼は思わず息を呑んだ。まるで、彼の心の奥底を見透かされているかのように、その投稿は彼を直接的に攻撃している。


「どういうことだ…?」


彼は焦りを感じた。自分の個人情報が漏洩しているなんて、考えたこともなかった。普段は無防備に思えるSNSの世界、その裏にはどれだけのリスクが潜んでいるのか。彼はその時、ふと思い出した。先日、知らないアカウントから友達申請が来ていたことを。彼は何の気なしに承認してしまった。


「まさか…あのアカウントが…」


彼の心臓はさらに早鐘のように鳴り始めた。布団の中で、彼は全身を強ばらせた。暗闇の中、スマホの青白い光だけが彼の顔を照らす。彼は思わず、手で顔を覆った。自分の個人情報がどんな形で悪用されるのか、まったく想像もつかなかった。


その時、画面に通知が入った。見慣れない名前からのメッセージだった。彼は恐る恐るメッセージを開く。「あなたのこと、ずっと見てるよ」と書かれていた。恐怖が彼の背筋を走った。まるで、何者かが彼のプライベートに侵入しているかのようだった。


「やめろ…」


彼は声を漏らした。耳元でささやくような声が聞こえた気がした。彼は急いでメッセージを削除したが、次々と新たな通知が入る。まるで彼を追い詰めるかのように、SNSのタイムラインは不気味な投稿で溢れかえっていた。


その中には、「あなたの個人情報がどこで使われているのか、知りたいですか?」というものもあった。彼は思わず身を硬くした。誰が、何のために彼を狙っているのか。その不安は、まるで暗闇の中で彼を見ている存在に変わっていった。


彼はスマホを置き、布団を被った。だが、恐怖は消えなかった。不気味な音楽が頭の中で鳴り響き、視覚的な恐怖が彼を襲った。彼は目を閉じて、何も考えないように努めた。しかし、彼の心臓は依然として高鳴り続けている。


「逃げられない…」


やがて、彼は意を決してスマホを手に取った。何かアクションを起こさなければ、状況は悪化する一方だ。彼は再びSNSを開いた。そして、驚愕の事実を目の当たりにする。自分のプロフィール写真が、知らない誰かによって変更されていた。そこには、彼の顔が不気味に歪んだ画像が使われていた。


「嘘だろ…」


恐怖が彼を包み込む。ついに、彼はそのアカウントをブロックすることにした。だが、ブロックした瞬間、画面が真っ黒になり、彼の目の前に「あなたはもう逃げられない」というメッセージが表示された。心臓の鼓動が止まりそうになる。彼は手が震え、スマホを落としそうになる。


「俺が何したってんだ」


彼は声を上げた。しかし、誰も彼の声を聞くことはなかった。彼は一人、暗闇の中でスマホの光を見つめ続ける。次第に、頭の中が真っ白になっていく。まるで、彼の存在そのものが、この不気味な投稿の一部になってしまうような気がした。


その瞬間、彼のスマホが鳴った。画面には「あなたの個人情報が、もうすぐ公開されます」というメッセージが映し出された。彼は思わず目を見開いた。恐怖に包まれ、彼は意識を失ってしまった。


次の日、彼のスマホは無事に見つかったが、彼自身は行方不明となった。彼のSNSアカウントには、不気味な投稿が次々と更新されていた。「彼はもう私たちの一部です」と。


その後、彼の存在は都市伝説として語り継がれることになる。スマホの光が暗闇を照らすその先には、誰がいるのか。彼の心に潜む恐怖は、今もなお続いているのかもしれない。





おススメ記事⇩

あの頃…

https://usokowa.blogspot.com/2025/02/blog-post_15.html#more

最新記事

妻のマグカップ

 ある晩、古びたアパートの一室で、僕は妻のマグカップを手に取っていた。茶色く、無数の細かいひびが蜘蛛の巣のように広がったそのカップは、妻が最期の時まで肌身離さず使っていたものだ。彼女が冷たくなった後も、僕はこのカップを捨てることなど到底できなかった。いつも彼女が淹れてくれた、焦げ...