深夜、真っ暗なオフィスに一人残された俺は、パソコンの青白い光だけが道標のように照らす中、疲労にまみれた身体で彼は独り残業をしていた。
終わらない残業。終わらないタスク。デスクの上には増え続けるメールの山。もう、何が何だかわからない。目の奥がチカチカして、画面を見つめるのも辛い。こんな日々がいつまで続くのかと、ただただ呆然としていた。周りには誰もいない。静寂の中で、時折聞こえる音は、まるで誰かが見ているかのような圧迫感を伴っていた。
「コツコツコツ…コツコツコツ…」音の正体はわからないが、明らかに彼の近くで響いている。思わず振り返ると、何もないはずの背後に、薄暗い影がちらりと見えた気がした。「気のせいだ」と自分に言い聞かせるが、心の底から恐怖が湧き上がる。まるで影が彼を覗き込んでいるかのように感じられた。
その瞬間、オフィスの照明が突然消えた。真っ暗闇に包まれ、彼の心臓は一気に早鐘のように鳴り響く。非常灯が赤く点滅する中、冷たい汗が背中を流れ落ちた。何も見えない。何も聞こえない。ただ、心臓の音と、先ほどの「コツコツコツ」がより大きくなっている気がした。
「誰か、いるのか?」彼は声を張り上げた。返事はない。静寂が支配する中、どこからともなく、「コツコツコツ…」と音が近づいてくる。まるで、誰かが足音を忍ばせて、彼に近づいてきているかのようだ。恐怖で身体が硬直する。「おい、誰かいるのか!」必死で叫ぶが、声が虚しく響くだけだった。
その時、パソコンの画面が突然、明るくなった。目が眩むほどの光の中、彼は動けなくなった。画面には、彼以外の何かの影が映り込んでいた。目が合った。彼の背後にいるその影は、彼を見つめ返している。恐怖と混乱が交錯し、思わず後ずさりしたが、足がもつれて倒れ込んだ。
「コツコツコツ…」その音は、彼の耳元で響き、息遣いのように感じられた。恐怖に駆られて立ち上がると、非常灯の赤い光が影を浮かび上がらせ、目の前には、彼の記憶にない顔があった。目が真っ黒で、口元には微笑みを浮かべている。言葉はなく、ただ彼を見つめ続ける。
「助けてくれ…!」彼は叫んだ。だが、その声は、オフィスの闇に吸い込まれて消えていく。影は彼の方へと近づいてきた。「コツコツコツ…」その音が、彼の心臓の鼓動に重なり、最後の一瞬、彼の意識は闇の中へと落ちていった。残されたのは、ただ静寂と、終わらないタスクだけだった。
その後、誰もいないオフィスは、いつまでも「コツコツコツ…」という音を響かせ続ける。誰も見ていないその場所で、終わらない残業は、これからも続いていくのだろう。