夜のドライブ

 大学の夏休み、3人の友人たちは、満天の星の下、夏の夜空をドライブすることにした。運転席には、太郎、助手席には花子、そして後部座席には健太が座っていた。


車は、街明かりが遠ざかるにつれて、周囲は漆黒の闇に包まれていった。ラジオから流れる軽快な音楽も、いつしか静けさに飲み込まれ、車内には3人の呼吸音だけが響く。

「ちょっと、太郎。この道、地図に載ってないんじゃない?」

花子が、カーナビの画面を指さしながら言った。太郎は、にやりと笑って、

「へへ、秘密のルートだよ。絶対楽しいからさ!」

と、無邪気に答える。しかし、健太の表情はどこか硬かった。

しばらくすると、車は深い森の中へと入っていった。木々は生い茂り、月の光も届きにくい場所。不気味な静けさが、3人の心を蝕んでいく。

「ちょっと、誰かいる…?」

花子が、後ろを振り向いた。後部座席の窓の外には、白い影が立っていた様に見えた。一瞬のことだったが、気のせいかと思って目を凝らすと、影は消えていた。

「気のせいだよ、気のせい…」

太郎は、そう言いながらも、ハンドルを握る手が震えているのがわかった。

やがて、車は古いトンネルへと差し掛かった。トンネルの中は灯りも無く真っ暗だった。

「うわっ!」

突然、後ろから冷たいものが肩に触れた。花子は、思わず叫び声を上げた。太郎が振り返ると、後部座席の健太が訝しげな顔で見つめ返す。

「な、なんだよそれ…」

太郎は、顔色を変えて、アクセルを踏み込んだ。トンネルを出ると、そこは開けた場所だった。

「もう、怖くて帰りたい…」

花子は、震えながらそう言った。太郎と健太も、心の中では同じことを思っていた。

しかし、車は一向に目的地に着かない。道はどんどん複雑になり、迷路のようだった。

「もしかして、オレたちは…」

健太が、恐る恐る口を開いた。

「呪われたんじゃないか?」

その言葉に、太郎と花子は顔を見合わせた。

そして、次の瞬間、車は急ブレーキをかけて止まった。フロントガラスには、白い女の顔が張り付いていた。

「ああああああ!」

3人は、絶叫して気を失ってしまった。

翌日、3人は発見された。車は、森の奥深くでひっくり返っており、3人は意識不明の状態だった。病院で目を覚ました3人は、昨日のことを鮮明に覚えていた。

「あれは一体なんだったんだ?」

「幽霊…?」

「まさか…」

3人は、互いの顔を見合わせ、言葉を失った。

それぞれ3人の足首には、手形がくっきりと付いていた。

それからというもの、3人は夜間のドライブをすることはなくなった。

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