かつて、この土地は実りの象徴だった。太陽の光を浴び、大地の恵みを育み、人々の食卓を豊かにする。しかし、時代の流れとともに、その輝きは失われていった。耕作放棄地と化し、雑草が生い茂り、廃墟と化した田んぼは、まるで忘れられた魂のようだった。
そんな土地に現れたのが、泥田坊だった。昔話に出てくる泥田坊とは少し違う。彼は、この土地で命を育み、人々に食料を提供していた大自然の怨念そのものだった。
泥田坊は、人間たちの傲慢さを目の当たりにした。食料の大量生産、安い輸入品、そして、耕作放棄地を生み出した農業政策。彼らが大切にしてきた大地が、これほどまでに蔑ろにされていることに、怒りを覚えた。
彼は、夜な夜な耕作放棄地から現れ、周囲の農作物を枯らし、家畜を病ませた。人々は原因不明の現象に恐れ慄き、専門家を呼んだり、除霊を試みたりしたが、泥田坊の怒りは収まらなかった。
やがて、泥田坊の仕業はエスカレートしていった。スーパーマーケットの野菜に奇妙な病気が発生し、食料の安全性が疑われるようになった。人々はパニックに陥り、食料の買い占めに走り、社会は混乱に陥った。
政府は、この事態を収拾するため、様々な対策を講じた。農地再生事業を打ち出し、耕作放棄地を減らそうとしたが、根本的な解決には至らなかった。専門家たちは、泥田坊のような存在は科学的に証明できないと結論付け、人々の不安を煽るだけだった。
結局、この問題は未解決のまま、人々の記憶から徐々に消えていった。耕作放棄地は、依然として放置され、泥田坊は、その中で静かに怒りを溜め続けているのかも知れない。