隙間からの視線

 部屋の隅、クローゼットの隙間、ベッドの下。どこを見ても、そこには深い闇が広がっている。その闇の中に、何かが潜んでいるような気がしてならない。


私は隙間恐怖症だ。小さな隙間、わずかな隙間さえも、私の心を不安にさせる。まるで、その隙間から何かがこちらを見ているような、そんな気がしてならないのだ。


特に夜になると、その恐怖は頂点に達する。部屋の明かりを消し、布団に潜り込む。しかし、瞼を閉じても、あの暗い隙間の奥底からこちらを見つめるような視線が、私の脳裏に焼き付いて離れない。


ある夜、いつも通りベッドに横になった私は、クローゼットの隙間から、かすかな光を感じた。目を凝らして見てみると、その光はゆっくりと大きくなっていき、やがて、小さな目が現れた。


私は思わず体を起こし、クローゼットに近づこうとしたが、足がすくんで一歩も動けない。その目は、まるで私を嘲笑うかのようにゆっくりとこちらを見つめている。そして、その目は次第に大きくなり、闇の中から何かが這い出てくるような気配がした。


恐怖に震えながら、私は目をぎゅっと閉じ、布団に顔をうずめた。しかし、その視線は私の心を離れることなく、いつまでも私の心に突き刺さっていた。


それからというもの、私はどこへ行っても、隙間からこちらを見つめるような視線を感じてしまうようになった。バスの座席の隙間、エレベーターのボタンの隙間、果ては自分の手のひらの線まで、どこを見ても、そこには恐ろしい目が隠されているように思えた。


私は精神科医に相談してみたが、原因は特定できないと言われた。薬を処方されたが、一向に症状は改善しない。


ある日、私はふと、この恐怖はもしかしたら、私の心の奥底にある何かが作り出した幻なのかもしれないと思った。幼い頃に感じた孤独や不安、それらが形を変えて、今の私の心を支配しているのかもしれない。


しかし、そんなことを考えても、恐怖は消えない。私は、この隙間からの視線から、いつまで解放されることができるのだろうか。


もし、あなたがこの物語を読んでいる最中に、背中に冷たいものが触れたような気がしたら、それはもしかしたら…


おススメ記事⇩

竹藪の砂かけ婆

https://usokowa.blogspot.com/2024/08/blog-post_30.html

最新記事

妻のマグカップ

 ある晩、古びたアパートの一室で、僕は妻のマグカップを手に取っていた。茶色く、無数の細かいひびが蜘蛛の巣のように広がったそのカップは、妻が最期の時まで肌身離さず使っていたものだ。彼女が冷たくなった後も、僕はこのカップを捨てることなど到底できなかった。いつも彼女が淹れてくれた、焦げ...