ある日のこと、友人たちと一緒に廃墟になった小学校に肝試しに行くことになった。
薄暗い夜、月明かりがかすかに照らす中、私たちはその場所にたどり着いた。古びた校舎は、まるで時が止まったかのように静まり返っている。ドアの隙間からは、微かな風が「ひゅうひゅう」と音を立てて吹き抜け、まるで何かが待ち構えているかのようだった。
「ねぇ、ほんとに入るの?」と、友人の彩が不安そうに言った。彼女の目は不安で輝いている。私も同じ気持ちだったけど、そんな怖がる彼女を見て、少し安心した。私たちの中で、最も肝が据わっているのは健だった。
「大丈夫だって!何もないよ。ほら、行こう!」と、彼は明るく笑ってみせた。けれど、その笑顔は少し虚ろに見えた。
一歩校舎に踏み込むと、コンクリートの床が「コツコツコツ」と音を立てる。まるで誰かが後ろにいるかのように感じた。私たちは心のどこかで、この場所に何かが潜んでいることを感じ取っていた。
校舎の中は、暗く湿った空気が漂っていて、古い机や椅子が散乱していた。カーテンは風に揺れ、「ひらひら」と音を立て、まるで誰かがそこにいるかのようだった。
私たちは懐中電灯の光を頼りに、廊下を進んでいく。
「ほら、あの教室に入ってみようよ!」と、健が言う。私たちは彼の後ろについて教室のドアを開けた。その瞬間、「ギィ」ときしむ音が響き、まるで誰かが中から出てきそうな気配がした。心臓がドキドキと早鐘のように鳴り響く。
教室の中は、机が乱雑に散らばり、黒板には古い文字がかすかに残っていた。私たちはその不気味さに圧倒され、何も言えなかった。しかし、健はその状況を楽しんでいる様子で、少し笑っていた。「ほら、何もないじゃん!すぐ出ようぜ!」
その瞬間、遠くから「トントントン」と、誰かが何かを叩く音が聞こえた。私たちは一斉にその音の方を見つめた。周囲が静まり返り、心臓の音だけが響く。「なに?今の音?」と、彩が震えた声で言った。私も怖くなり、後ろを振り向いた。けれど、誰もいない。暗闇の中に何かが潜んでいる気配を感じた。
「ちょっと、見に行こうよ」と健が言ったが、私は反対した。「何かがいるかもしれない!」と告げると、彼は笑いながら「大丈夫、俺が行くから」と言った。まるで勇敢な騎士のように見えたが、その表情はどこか不安げだった。
彼が廊下に出ると、「コツコツコツ」と音が続く。私たちは彼の後ろをついて行ったが、心の中では恐怖が広がっていた。廊下の先には、かすかな影が見えた。私たちはその影に引き寄せられるように歩み寄る。
「あれ、なんだ?」健が言った。私たちもその影を見つめた。影は、まるで人間のような形をしていた。
「い、行こうよ」と彩が言ったが、私たちは動けなかった。その瞬間、影が振り向いた。目が合った瞬間、私は凍りついた。そこには、無表情で何も感じていない顔があった。目は虚ろで、まるで私たちを見ていないかのようだった。
「ワタシワダレ……?」と、影は呟いた。
その声は、まるで空気が震えるように響いた。「フワッ」とした不気味な感触が私の背筋を走り抜けた。健が恐怖で叫び声を上げる。「逃げよう!」と叫び、私たちはその場から走り去った。廊下を駆け抜け、階段を下りると、後ろから「コツコツコツ」と追いかけてくる音が聞こえた。
一緒に逃げる友人の顔は真っ青で、心臓がバクバクと音を立てている。
「早く!」と叫ぶ私の声が響く。しかし、廊下は長く感じられ、出口は遠い。後ろから迫る音が、ますます近づいてくる。
「コツコツコツ、コツコツコツ」と、まるで私たちを追い詰めるかのようだった。
ようやく出口が見えたが、そこで立ち止まることができなかった。友人たちが先に飛び出し、私は最後に外に出た。
しかし、目の前には誰もいない。
空は暗く、月明かりだけが頼りだった。私は振り返り、校舎を見つめた。あれだけの恐怖を感じたのに、誰もいない。
「健!彩!」と叫んでも、返事はない。
静寂が私を包み込む。
耳元で「ワタシワダレ……?」という声が響き、意識が混乱する。
私は自分が誰なのかもわからなくなった。もう彼らのことも思い出せない。校舎の中からは、再び「コツコツコツ」と音が聞こえた。
その瞬間、すべてが崩れ落ちるような感覚が襲ってきた。私の心に深い闇が広がり、「ワタシワダレ……?」という問いかけが耳元で反響する。私は誰なのか、もうわからない。恐怖の中で、ただひとつの思いが心に残った。逃げても逃げても、私自身がその恐怖の一部になってしまったのだと。
おススメ記事⇩
川の守護神