朝の光が薄いカーテンを透かして、部屋の中に柔らかな温もりをもたらす。いつものように目を覚ました僕は、ベッドの中でスマホを手に取った。目がまだぼやけたまま、ホーム画面を眺める。画面には、自分の生活を彩るアプリたちが並んでいる。しかし、その日の朝、何かが違った。
「なんだこれ?」
目の前に見慣れないアイコンが鎮座していた。黒い背景に、赤い目でこちらを見据える顔のアイコン。まるでこちらを監視しているかのような、不気味な視線を感じる。
「気持ち悪い…」
心の中でそう呟きながらも、気にも留めずにその日は過ぎ去った。仕事へ向かう途中、いつものように友人と話し、ランチを食べ、何も特別なことは起こらなかった。だが、帰宅した後、ふとそのアイコンを思い出した。好奇心が抑えられず、僕はそのアイコンをタップした。
「ブッ!」
突然、耳障りな音が鳴り響いた。画面が真っ暗になり、次の瞬間、赤い目がまばたきする。驚きと恐怖が交錯する中、僕はすぐに画面を閉じた。心臓がバクバクと音を立て、手が震える。何かが始まったのかもしれない。僕の脳裏に不安が広がる。
その日から、奇妙なことが次々と起こり始めた。夜遅くまで寝付けなかったり、夢の中で赤い目を持つ何かに追いかけられたり。友人たちにも異変が起き始めた。SNSのタイムラインには、彼らの不吉な投稿が次々と流れ込んでくる。誰もが不安を抱えているようだった。
「おい、最近おかしくないか?」
友人の一人、翔が僕の前で不安そうに言った。彼の目は、どこか怯えているようにも見えた。僕は彼にアイコンのことを話したが、彼もまた同じような体験をしていた。
「俺もあのアイコンを見た。最初は気にしなかったけど、最近夢に出てくるんだよ。あの赤い目が…」
翔の声が震えている。彼の心にも恐怖が宿っているのかもしれない。一体、このアイコンは何なのか?どうして僕たちを狙うのか?疑問が渦巻く。
翌日、僕は再びあのアイコンをタップしてみた。すると、今度は画面にメッセージが表示された。「あなたの恐怖を教えてください。」その瞬間、背筋に寒気が走った。まるでこのアイコンが、僕の心の中の不安を読み取っているかのようだった。
「何を伝えたいんだ…」
思わず呟く。恐怖が僕の心を支配し、冷静さを失いかけていた。僕は翔に連絡し、一緒にこのアイコンの正体を探ることにした。二人で集まり、深夜の公園で話し合うことにした。
「どうする?このアイコンを消しちゃえばいいんじゃない?」
翔が言ったが、僕は首を振った。
「でも、消したところで、また新しいアイコンが出てくるかもしれない。これが何か、知っておかないと…」
その時、周囲の静寂がいっそう深まった。月明かりの下、僕たちは不安を抱えながらも、決意を固めた。アイコンの真実を知るためには、もっと情報を集める必要がある。
数日後、ネットで調査を続けた結果、呪いのアイコンについての記事を見つけた。多くの人々が同じような経験をしており、アイコンを触った後に不幸な出来事が続くという。恐怖が再び僕を襲う。翔も同様に感じているだろう。
「このアイコンを探し続けるのは、危険すぎるかもしれない…」
翔が呟く。彼の表情には、恐怖が色濃く浮かんでいた。
「でも、何かしらの解決策を見つけなきゃ、ずっとこのままだろう。」
僕は心の中で決意を固めた。アイコンの真実がわかれば、何かしらの手がかりが得られるかもしれない。そこで、僕たちは呪いを解くための方法を探し続けた。
ある晩、二人で深夜の公園に再び集まった。月明かりが薄く、星が瞬く空に、僕たちの不安が募る。翔が携帯を取り出し、アイコンを再び触れることに決めた。
「せめて、何が起こるのか確かめよう。」
彼の決意に僕も頷いた。しかし、次の瞬間、画面が真っ暗になり、再び赤い目が現れた。心臓が高鳴り、恐怖が全身を駆け巡る。
「あなたの恐怖を教えてください。」
今度は、ただのメッセージだけではなかった。画面の向こうから、低い声が聞こえた。まるで僕たちの恐怖を、楽しんでいるかのような冷たい響きだった。
「何をしたい…?」
翔が呟く。恐怖が彼の声を震えさせる。僕はもう一度、アイコンを触ろうとしたが、翔が止めた。その瞬間、僕たちの目の前に、赤い目を持つ影が現れた。まるでアイコンが具現化したかのような恐ろしい存在が、僕たちを見つめている。
「何が欲しいの…?」
翔が声を震わせながら問いかけた。影は静かに近づき、僕たちの恐怖を吸い込むかのように迫ってきた。心の奥底から湧き上がる恐怖、逃げ出したい気持ちが頭を支配する。
「もう何もかも、終わらせよう。」
翔が叫んだ。彼はアイコンを無理に消そうと画面を叩いた。しかし、影は無情に近づいてくる。僕たちは恐怖に駆られ、逃げ出そうとしたが、足が動かない。
その瞬間、翔がアイコンを叩き続けた。「お願い、消えてくれ!」
影が一瞬止まった。その時、僕たちの心の中に、何かが閃いた。恐怖に立ち向かうことで、呪いを解く力を持っているのかもしれない。翔が叫ぶ。
「俺たちは、もう恐れない!」
僕も叫んだ。「俺たちは、負けない!」
二人の声が重なり、影は一瞬怯んだ。赤い目が揺らぎ、最後に大きな声で叫んだ。「お前たちの恐怖は、もう終わりだ!」
その瞬間、影は消え、アイコンも消え去った。僕たちは静まり返った公園の中、安堵のため息をついた。恐怖から解放されたかのように、心が軽くなった。
「やった…!」
翔が笑顔を見せた。僕もつられて笑った。何が起こったのかはわからないが、確かに僕たちは立ち向かうことで、呪いを解いたのだ。赤い目のアイコンは、もうそこにはなかった。
しかし、これが本当に終わりだったのか。心の奥に、疑念が残る。恐怖は、いつでも再び現れる可能性がある。それでも、僕たちは恐れずに前に進んでいこう。どんな恐怖が待ち受けていても、共に立ち向かう仲間がいる限り。
そして物語の幕が下ろされた。