それは私が夜勤の看護師として働き始めて、まだ数ヶ月の頃でした。その日は担当患者さんの容態が安定していて、久しぶりに落ち着いて夜の巡回ができる日でした。
深夜2時過ぎ、私は点滴の交換やバイタルチェックのために病棟を巡回していました。廊下を歩いていると、ふと違和感を感じました。
普段は静かなはずの病院が、いつもより一層静まり返っているのです。まるで時間が止まったかのように、音が全く聞こえません。
シーンと静まり返った廊下を歩いていると、背筋がゾクッとしました。
(何かおかしい…)
そう思いながらも、私は業務を続けました。
次の患者さんの部屋に入ると、なぜか部屋の電気が消えていました。
「あれ?さっきまでついていたはずなのに…」
そう思いながら電気のスイッチを探しましたが、見つかりません。
仕方なく、懐中電灯で手元を照らしながら、点滴の交換を済ませました。
部屋を出ようとしたその時、背後から視線を感じました。
振り返ると、誰もいません。
(また気のせいか…)
そう思いながら部屋を出て、廊下を歩き始めました。
すると、今度は廊下の奥から音が聞こえてきました。
「カツン、カツン」
それは、何か硬いものがぶつかり合うような音でした。
音のする方へ近づいていくと、音はだんだん大きくなります。
そして、廊下の突き当たりにある部屋の前で、音は止まりました。
その部屋は、使われていないはずの倉庫でした。
(こんな時間に、誰かがいるのか…?)
そう思いながら、私は倉庫の扉を恐る恐る開けました。
中に入ると、薄暗い空間が広がっていました。
そして、音の正体が分かりました。
それは、天井から吊り下げられた何かが、床に置かれたバケツにぶつかる音でした。
何が吊り下げられているのか、気になって近づいてみました。
懐中電灯で照らしてみると、それは人間の頭蓋骨でした。
頭蓋骨は、口を大きく開けて、何かを訴えかけているようでした。
「キャー!」
私は思わず悲鳴を上げ、倉庫から飛び出しました。
廊下を走りながら、私は何度も後ろを振り返りました。
しかし、誰もいません。
(あれは、一体何だったんだ…?)
恐怖で体が震えながらも、私は巡回を続けました。
その後、何事もなく朝を迎えましたが、あの頭蓋骨の光景は、今でも脳裏に焼き付いています。
夜の病院は、本当に不気味です。
誰もいないはずの場所に、誰かの気配を感じたり、音が聞こえたり…。
もしかしたら、あの時見た頭蓋骨は、私に何かを伝えようとしていたのかもしれません。
今となっては、知る由もありませんが…。
夜勤の看護師の仕事は、体力だけでなく、精神力も必要だと改めて感じた出来事でした。