深夜、古びた町家の宿に泊まっていた青年・裕太は、
宿の一夜
鳴き声の正体
まだ僕が小学生だった頃、瀬戸内海に浮かぶある島の祖父の家に、盆の帰省を家族でした時の話。
両親と二人の幼い妹の五人でほぼ半日掛けて辿り着いた。
祖父と祖母は優しく僕たちを迎えてくれて、少し早いけど晩御飯を家でご馳走になることになった。
海の幸や美味しい食べ物を頬張って迎えた夜。いい感じに酔いも回った祖父が、島の漁師にまつわる怖い話を話してくれた。
毎年これが楽しみで、お盆に帰省していた。
祖父は話し出す。
島に住むトクさんという老漁師がいた。ある夜、いつものように漁に出たトクさんは、沖合で奇妙な鳴き声を聞いたと言う。それは、まるで女性の悲痛な叫び声のような、そして同時に、何かが水中を這いずり回るような不気味な音だったそうだ。
そして船が大きな手に掴まれたように、ガクンと揺れると、悲痛な叫びと這いずるような音は遠ざかっていったそうな。
恐怖に駆られたトクさんは、急いで港に戻ったが、それからというもの、その鳴き声が耳から離れず、夜も眠れなくなってしまったそうだ。
村人たちは、それは深海に住む妖怪「海坊主」の仕業だと噂し、トクさんはその後、海の近くにも行けなくなってしまったとか。
その夜、布団の中で、僕は真っ暗な海を漂っている夢を見た。
朝になると、布団がぐっしょりする程の寝汗を掻いて目が覚めた。
まだまだ祖父の怖い話は沢山あるので、それは次回お話ししたいと思う。
古民家の庭で見た不思議な光
夏休み、私はおばあちゃんの家に遊びに行きました。おばあちゃんの家は、大きな古民家で、広い庭には大きな木がたくさん生えていました。
ある日、従兄弟の太郎くんと一緒にお寺の古い神社へ遊びに行きました。神社の奥には、大きなクスノキがあり、その下には太鼓橋がかかっています。私たちは、その橋の上で座り、川の流れを眺めていました。
「ねぇ、太郎くん。この神社、なんか怖いね」
太郎くんは、「なんで?」と不思議そうに聞いてきました。
「だって、この木、なんか生きてるみたいじゃない?」
クスノキは、その年輪が何百年もかけて作られたかのように、とても大きく、太く、力強かったです。
「そうかもね。この木、きっと何かを知ってるんじゃない?」
太郎くんがそう言うと、私は急に怖くなり、太郎くんの腕にしがみついてしまいました。
その時です。
クスノキの根元から、ぼんやりとした光が輝き始めたのです。
「わぁ!なんだあれ?」
私たちは目を丸くして、その光を見つめました。
光はだんだんと大きくなり、最後は満月のように輝き始めました。
そして、その光の中に、小さな人影が見えたのです。
その人影は、私たちに向かって手を振っているようでした。
「あれは、きっとこの神社の神様だよ」
太郎くんがそう言うと、私は思わず膝をつき、その光に向かって手を合わせました。
しばらくすると、光はゆっくりと消えていきました。
私たちは、しばらくの間、その場に立ち尽くしていました。
「すごい体験だったね」
太郎くんがそう言うと、私はうなずきました。
あの日のことは、今でも忘れられません。
おばあちゃんの家の庭で見た不思議な光は、私にとって忘れられない夏の思い出となったのです。
私たち3人の出来事
放課後の教室で、私たち3人の女子中学生、美咲、愛梨、和子は楽しく雑談していました。夕焼けが教室を染める中、会話は弾んでいました。「明日はバレンタインデーだよね。みんなはどうするの?」と愛梨が尋ねると、美咲は嬉しそうに「クラスの人気者の佐藤くんにチョコをあげるつもり!」と答え、和子も「幼なじみの大橋くんにあげるよ」と話しました。
そんな中、廊下を歩く不気味な人影が現れ、私たちは不安に感じました。「変な格好をしている」と和子が指摘し、やがて人影が近づいてきたのです。「逃げよう!」と愛梨が叫び、私たちは必死に教室から飛び出し、廊下を駆け抜けました。後ろから追いかけてくる足音に怯えながら、ついに外に出ることができました。
しかし、恐怖は続いていました。
さっきまで人の形をしていた影は何とも言えない形に変化し、回転しながら校舎の外まで追いかけてきたのです。
「学校の門まで走ろう!」と美咲が言い、私たちは汗をかきながら必死に走りました。ついに門にたどり着いた時、愛梨は「やっと脱出できた」と安堵の声を上げました。振り返ると、不気味な影はもういませんでした。
その後、私たちは恐怖の体験を話し合いました。「あの時の恐怖は忘れられない」と愛梨が言い、和子は「みんなで助け合えたから良かった」と感謝の気持ちを伝えました。美咲も「みんなが一緒なら大丈夫」と優しく語りかけてくれました。
その夕焼けの中、私たちは新たな一歩を踏み出すことができました。バレンタインデーに向けて準備を進めながら、あの出来事を忘れることはありませんでしたが、私たちはお互いを支え合い、乗り越えていくのだと確信していたのです。
おーい!
キャンプ仲間ととある登山キャンプ中に、山の中で恐ろしい出来事が起こった。
夜中の闇に包まれた山の中、私たちはテントの中でくつろいでいた。疲れた体を休めるためにキャンプを決めたが、この暗闇の中で眠りにつくのは少々怖かった。しかし、仲間がそばにいる安心感があり、なんとか目を閉じた。
すると、突如として遠くから聞こえる「おーい!おーい!」という呼び声が響き渡った。私たちは驚き、懐中電灯を手に取って周囲を照らし始めた。しかし、闇の向こうには誰もいない。声はどこからともなく聞こえてきているようだった。
怪しさを感じながらも、私たちは声の主を探すためにテントを出た。しかし辺りには誰も居なかった。
不審に思いながらもテントに戻り、仲間と二人で首を傾げた。
しばらく酒を飲みながら談笑していると、また「おーい!おーい!」と声が聞こえてきた。
しかも今度は先ほどより少し近くから聞こえてきた気がする。
今度は二人とも顔を見合せたまま動かない。
更に何度も「おーい!おーい!」と叫びながら声は二人のテントに近づいてくる。
やがてテントの入り口近くでひと言
「おい!!」
と聞こえ、咄嗟に入り口を開けてみたが、そこには暗闇が広がっているだけだった。
そして登山キャンプから数日が経ったある日、私は新聞の記事を見つけた。それは、この山で行方不明になった登山者の話だった。
私は思わず息を飲んだ。あの夜の出来事は、もしかしたらあの登山者の霊なのかもしれないと考えた。
それからというもの、私たちは二度とあの山に戻ることはなかった。あの夜の怖い体験は私たちの心に深く刻まれ、忘れることはできない。
「おーい!おーい!」という声が再び聞こえることはなかったが、私たちはいつまでもあの夜の謎を解き明かせないままだった。
【影】
まだ新米会社員である私は、明日の会議の資料をまとめるために遅くまで仕事をしていた。疲れた身体をベッドに横たえると、すぐに眠りに落ちた。
しかし、夜中になんとなく寝苦しい感覚があった。部屋の中には異様な気配が漂っているような気がした。すっかり眠りから覚めた私は、周囲を注意深く見回す。
部屋の中は薄暗く、ほのかに明かりが差し込んでいる。
視界の端に何かモゾモゾと動く影の様な物を感じた。それはジワジワと近づいてきた。寒気を感じながらも何者かという好奇心が生まれ、確かめてみようと首を回す。
やがて暗闇に目が慣れてきて見えてきたその姿は不定形で、まるで闇の中から生まれたような存在だった。私はあらゆる思考を捨て、ただただ恐怖に取り憑かれてしまった。
影が私に触れると、私の身体は激しい寒気に包まれた。氷のような冷たさが骨まで染み渡り、私の意識は次第に遠のいていった。
目が覚めると、朝になっていた。私はベッドの上で横たわっている自分の姿を見つめながら、何を取り戻すことはなかった。私はただ影となって、人々の間を彷徨い続けることになった。私の存在は無かったかのように、人々は私を無視し、通り過ぎていく。
私はなぜこんな目に遭ったのか、何が起きているのかを知りたい。しかし、それは永遠に解明されることはなく、私はただただ影として生き続けることになった。
恐怖に満ちた山小屋の夜
大学山岳部のA、B、Cの3人は、北アルプスの槍ヶ岳登山に挑戦していた。Aはリーダー格で経験豊富な登山者、Bは体力自慢の初心者、Cは慎重で心配性な性格だった。
順調に登頂を目指していた一行だったが、山頂付近で突然激しい雷雨に見舞われる。天候悪化を考慮し、下山を決断するものの、視界が悪くなり、Bが道を外して行方不明になってしまった。
AとCは、Bを捜索しながら下山しようとするが、更に天候が悪化し、視界が完全に失われてしまった。絶体絶命の状況下、Aは近くの山小屋へと避難することを決断する。
山小屋に到着すると、すでに他の登山者が避難しており、Bの捜索隊が出動していることが判明した。しかし、山小屋は、突如の豪雨で屋根の一部が破損し、床には雨水が溜まっていた。停電により照明は限られ、不気味な静寂と暗闇が3人を包み込む。
AはBの無事を祈りながら、Cを励まし、一夜を過ごそうとするが、Cは恐怖で震えが止まらない。深夜、Cは突然、山小屋の奥から物音が聞こえたと訴える。Aは懐中電灯で照らすが、何も見つからない。しかし、Cの恐怖は消えず、Aも徐々に不気味な雰囲気を感じ始める。
翌朝、捜索隊が到着し、Bは無事発見された。しかし、AとCは、昨夜山小屋で聞いた物音の正体について、答えを見つけることができなかった。
下山後も、AとCはあの恐怖の夜を忘れることができなかった。山は美しいだけでなく、恐ろしい一面も持っていることを、身をもって体験したのだ。
そして、山小屋に潜む恐怖の正体については、様々な可能性が考えられる。単なる動物の鳴き声、強風による音、Cの幻覚、あるいは超常現象...。山には不思議な事があるのだろう事を思い知った、恐ろしい夜の物語。
河童の人形
「ねぇ、ここって本当に廃村なの?」
大学生の三人組、夏美、優斗、真哉は、廃村と噂される村に肝試しにやってきた。
「そうらしいよ。河童の集団に復讐されて廃村になったって言われてるんだ。」
優斗が言うと、真哉は興味津々の表情を浮かべた。
「河童?本当にいるの?」
夏美が疑問を投げかけると、優斗はにやりと笑った。
「怖がらなくても大丈夫だよ。ただの妖怪の一種だからさ。」
しかし、村に足を踏み入れると、三人の表情は一変した。
午後1時、村は静寂に包まれている。初めははしゃいでいた三人だが、あちこちから感じられる得体のしれない気配に段々と無口になっていく。
「なんだか、気味悪いね…」
夏美が小声で呟くと、優斗も同意した。
「確かに…ここには何かが潜んでいるような気がする。」
真哉の言葉に、三人は不安を募らせながらも、進んでいく。
すると、道路脇にある古い家屋の前で、彼らは奇妙なものを見つけた。
「これは…人形?」
夏美が手にとって見せるのは、壊れかけた人形だった。その人形は、不気味な笑みを浮かべている。
「これ、どうしてこんなところにあるんだろう…」
真哉が首を傾げると、優斗がふと口を開いた。
「そういえば、この村では河童の人形を作る伝統があるって言われてるんだよ。」
三人は不思議な感覚に包まれたまま、村をさらに進んでいく。
すると、突如として空気が変わった。周りに立ち並ぶ家々からは、不気味な声が聞こえてきた。
「ひひひひ…」
「誰だ、そこにいるのは!」
夏美が声を上げると、優斗が彼女の肩を抱えた。
「落ち着いて、夏美。ここはただの妖怪伝説の舞台に過ぎないんだから。」
しかし、その言葉は夏美の不安を解消することはできなかった。
次第に、三人は村の中心にある川へと足を進めていく。川岸には数々の河童の人形が並んでいた。
「ここだ…河童の集団が復讐した場所だと言われている川だ。」
真哉が囁くと、優斗が一つの人形を手に取った。
「これって…」
その人形には、見覚えのある顔が彫り込まれていた。
「これって、私たちの顔じゃない?」
夏美が驚きを隠せない声で叫ぶと、優斗がにやりと笑った。
「これはきっと、河童たちが私たちを警戒して作ったんだよ。」
その言葉に、三人は戦慄した。
すると、川から河童の姿が現れた。
「さぁ、お前たちの復讐の時間だよ。」
河童の集団が三人を取り囲む。
「待って、何に復讐されるって言うんだ!」
夏美が必死に訴えるが、河童たちはひたすらに笑みを浮かべている。
「お前たち人間が、河童の人形を作り、嘲笑った罪だよ。」
三人は絶望の中で、河童たちに引きずり込まれていった。
その後、三人の姿は二度と見ることができなかった。
廃村には、彼らの姿を象った河童の人形が増えていった。
そして、それを見た人々は、廃村が本当に河童の集団に襲われたのだと信じるようになった。
しかし、真相は闇の中へと消えていった。
終わり
鏡の中の真実
真夜中の学校。古い校舎に響くのは、風の音だけ。誰もいないはずの教室から、物音が聞こえてきた。
そっと近づいてみると、教室の奥に一台の鏡が置いてあった。薄暗い教室の中で、鏡にはもう一人の自分が映っているのが見えた。しかし、よく見ると、鏡の中の自分は不気味な笑みを浮かべている。
背後を振り返ると、そこには誰もいない。鏡の中の自分が、じわじわと動き出す。そして、突然、鏡の中から飛び出してきた。
鏡の中の自分は、恐ろしい姿をしていた。まるで自分の悪い感情が具現化したかのようだ。必死に戦うが、鏡の中の自分は強敵だ。
絶体絶命のピンチに陥った時、ふと鏡に映る自分の顔に気がついた。鏡の中の自分は、恐怖に歪んだ顔をしていた。しかし、自分の本当の顔は違う。勇気を持って立ち向かうことを決意する。
そして、全身の力を振り絞って鏡の中の自分に向かって叫ぶ。「私は、怖くない!」
すると、信じられないことが起こった。鏡の中の自分は、苦悶の表情を浮かべながら消えていった。そして、鏡に映る自分の顔は、再び優しい笑顔に戻っていた。
辺りの音も消え、再び静寂が訪れる。鏡の中の真実とは、自分の心の奥底に潜む闇だったのかもしれない。恐怖に打ち勝ち、本当の自分を取り戻した夜だった。
深夜の終電、取り残された男
サラリーマンの田中は、今日も上司の無理な要求に追われ、疲れ果てていた。時計を見れば、もう11時を過ぎている。辺りは真っ暗で、駅の改札は閑散としている。
田中は急ぐように改札を抜け、ホームへ向かう。間もなく、最後の終電が入線してきた。ガラガラの車内に飛び乗り、ついに一息つくことができた。だが、疲れと睡魔に負けてしまい、うたた寝してしまった。
目を覚ますと、電車は終点に到着していた。ホームには誰もいない。辺りは不気味な静寂に包まれ、真っ暗闇だ。田中はドアを開けようとするが、施錠されていた。窓の外を見れば、鉄格子に囲まれた不気味な空間が広がっている。
恐怖に震える田中は、助けを求めて叫ぶが、誰も返事をしない。車内のポスターに目を向けると、そこには失踪者の写真と、不穏なメッセージが書かれている。
「この駅から抜け出すには、早朝の鐘の音を聞くこと。生き延びたいなら、一人で出口を探すな。」
絶望に打ちひしがれながらも、田中はポスターの言葉を信じ、朝の訪れを待つことにした。
朝焼けと共に、どこからともなく鐘の音が響き渡る。田中はその音に導かれるように、薄暗い通路を進む。そして、ついに出口を見つけた。
しかし、振り返ると、駅舎はすでに姿を消している。辺り一面、茫漠とした闇が広がっている。田中は、自分がどこにいるのかわからなくなった。ただ、永遠にこの場所をさまよい続けるしかない。
田中の絶望の叫び声が、朝の光に虚しく響き渡っていく。
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