秋の夜風が、ひんやりと肌を撫でる。街灯もまばらな道は、木々の影が長く伸びて、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。
大学から帰宅途中の美咲は、いつも通りの道を急いでいた。今日はバイトが遅くなり、いつもより遅い時間になってしまった。スマートフォンで時間を確認しながら、足早に歩く。
「もうそろそろ着くかな…」
そう呟きながら、美咲は辺りを見渡した。辺りはすっかり暗く、人影はまばら。秋の虫の鳴き声が、余計に静けさを際立たせている。
ふと、背後から視線を感じたような気がした。振り返ってみると、誰もいない。気のせいかも知れないと自分に言い聞かせ、再び歩き出す。しかし、その直後、今度は左側から何かが擦れるような音が聞こえた。
心臓がドキドキと音を立てて、美咲は思わず足を止めた。深呼吸をして、落ち着こうとするが、恐怖感は増すばかり。再び辺りを見渡すが、やはり何もない。
「気のせい、気のせい…」
そう呟きながら、美咲は早足で歩き始めた。しかし、どこからともなく、足音が聞こえてくるような気がする。
「誰!?」
美咲は大きな声で叫んだが、返事は何もない。恐怖に震えながら、必死にマンションの玄関を目指した。
ようやくマンションに着き、鍵を開けて部屋の中に入ると、ホッとした息をついた。しかし、その安堵感はすぐに消え失せた。
部屋の中が、いつもと違う気がしたのだ。カーテンがわずかに揺れているように見え、物音がする。
「まさか…」
美咲は、恐怖に震えながら部屋の中をじっと見つめた。そして、そのとき、背後から冷たいものが首に触れた。
「うわああああ!」
美咲は悲鳴を上げ、部屋の中を走り回った。しかし、どこにも何もいない。
結局、その夜は、一睡もできずに明けた。朝、窓の外を見ると、何もなかった。昨日の出来事は、まるで悪夢のようだった。
しかし、美咲は心のどこかで、あの夜感じた恐怖を忘れることはなかった。そして、あの暗い夜道を通るたびに、あの日のことを思い出してしまうのだった。
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