暗闇に潜む影

 秋の夜風が、ひんやりと肌を撫でる。街灯もまばらな道は、木々の影が長く伸びて、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。


大学から帰宅途中の美咲は、いつも通りの道を急いでいた。今日はバイトが遅くなり、いつもより遅い時間になってしまった。スマートフォンで時間を確認しながら、足早に歩く。


「もうそろそろ着くかな…」


そう呟きながら、美咲は辺りを見渡した。辺りはすっかり暗く、人影はまばら。秋の虫の鳴き声が、余計に静けさを際立たせている。


ふと、背後から視線を感じたような気がした。振り返ってみると、誰もいない。気のせいかも知れないと自分に言い聞かせ、再び歩き出す。しかし、その直後、今度は左側から何かが擦れるような音が聞こえた。


心臓がドキドキと音を立てて、美咲は思わず足を止めた。深呼吸をして、落ち着こうとするが、恐怖感は増すばかり。再び辺りを見渡すが、やはり何もない。


「気のせい、気のせい…」


そう呟きながら、美咲は早足で歩き始めた。しかし、どこからともなく、足音が聞こえてくるような気がする。


「誰!?」


美咲は大きな声で叫んだが、返事は何もない。恐怖に震えながら、必死にマンションの玄関を目指した。


ようやくマンションに着き、鍵を開けて部屋の中に入ると、ホッとした息をついた。しかし、その安堵感はすぐに消え失せた。


部屋の中が、いつもと違う気がしたのだ。カーテンがわずかに揺れているように見え、物音がする。


「まさか…」


美咲は、恐怖に震えながら部屋の中をじっと見つめた。そして、そのとき、背後から冷たいものが首に触れた。


「うわああああ!」


美咲は悲鳴を上げ、部屋の中を走り回った。しかし、どこにも何もいない。


結局、その夜は、一睡もできずに明けた。朝、窓の外を見ると、何もなかった。昨日の出来事は、まるで悪夢のようだった。


しかし、美咲は心のどこかで、あの夜感じた恐怖を忘れることはなかった。そして、あの暗い夜道を通るたびに、あの日のことを思い出してしまうのだった。


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謎の新聞

 毎晩、男の家のポストには、白い封筒に入った新聞が投函されていた。それは普通の新聞とは異なり、紙質も薄く、インクの色もくすんでいた。まるで、どこかの古い印刷所で、手作業で刷られたような粗末な出来だった。


しかし、その新聞の内容は、男をぞっとさせた。そこには、明日の自分が目にするであろう出来事が、まるで昨日の出来事のように克明に記されていた。例えば、「明日の朝、出勤途中にカラスに糞をかけられる」といった些細な出来事から、「職場で上司に叱られる」といった少し深刻な出来事まで、ありとあらゆる出来事が事細かに記されていたのだ。


最初は単なる偶然かと思っていたが、数日後、新聞に書かれたことがすべて現実になったとき、男は恐怖に慄いた。そして、日々、新聞を読む度に、来るべき不幸を予見し、心の底から不安に駆られるようになった。


やがて、新聞に書かれる出来事は、男の身近な人物へと広がっていった。彼の家族、友人、そして同僚。新聞に書かれた出来事が現実となり、彼らが不幸に見舞われるのを、男はただ見ていることしかできなかった。


そして、ついに、新聞には男自身の死が予言された。恐怖に打ちのめされた男は、どうにかこの状況から抜け出そうと、あらゆる手を尽くした。新聞を破り捨てたり、警察に相談したりもしたが、何も解決策は見つからなかった。


そんなある日、男はふと、この新聞がどこから来たのか、なぜ自分にだけ届くのか、ということを考え始めた。そして、ある日、新聞に書かれた古い印刷所に行ってみることにした。


その印刷所は、すでに廃業しており、薄暗い部屋には、古い印刷機が埃をかぶっていた。男は、その印刷機をじっと見つめ、あることに気がついた。印刷機には、奇妙な形の模様が刻まれていた。それは、男が見たことのない、古代の文字のようだった。


意味は解らなかったが、この印刷機が全ての元凶であるのは明らかだった。


男は印刷機を破壊した。そして、その場から逃げ出した。


それからというもの、男の元に新聞が届くことはなくなった。しかし、男は、心の奥底に、一抹の不安を感じ続けていた。未来を予知する能力を失ったことで、彼は、いつ何が起こるのか分からなくなったのだ。


そして、男は悟った。未来を知ることは、必ずしも幸せなことではない。むしろ、未来を知ることで、人は不必要な不安を抱え、心を病んでしまうのかもしれない。



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古民家の庭で見た不思議な光

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竹藪の砂かけ婆

 スマートフォン片手に、都会の喧騒を離れ、裏山の竹藪へと足を運んだ若者たち。SNS映えする写真を撮ろうと、奥深くへと進んでいく。


日が暮れ始め、あたりは薄暗くなってくる。そんな中、一人の若者が奇妙な影に気づいた。「あれ、誰だ?」と声をかけると、影はゆっくりとこちらへ近づいてくる。


薄暗い中、ぼんやりと現れたのは、白い布を頭からかぶった老婆の姿だった。老婆は、若者たちに向かって何かを呟き、砂を撒き始めた。砂は、ただならぬ重みを感じさせ、若者たちは身動きが取れなくなってしまう。


恐怖に震えながら、若者たちは必死に助けを求める。しかし、砂かけ婆の姿は、あっという間に消え去ってしまった。


翌日、若者たちは無事だったものの、心身に深い傷を負っていた。その体験は、ただの悪夢ではなかった。SNSに投稿された写真には、砂かけ婆らしき影が写り込んでおり、多くの人の注目を集める。


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古民家の庭で見た不思議な光

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超巨大台風と異形の者たち、そしてライブ配信の結末

 その村は、古くから「祟りがある」と恐れられてきた。かつて、超巨大な台風が村を襲い、同時に異形の者たちが現れ、村を滅ぼしたという。その伝説は、村人が語り継ぐ恐ろしい物語として、人々の心に深く根付いていた。


人気ユーチューバーのケンは、そんな恐ろしい伝説に惹かれ、その村をライブ配信することにした。彼は、最新の機材を携え、村へと足を運んだ。廃墟となった家々、ひび割れた道路、そして、どこかに漂う異様な雰囲気。カメラを向けながら、ケンは興奮と同時に、一抹の不安を感じていた。


ライブ配信が始まると、視聴者は急激に増加していった。コメント欄は、恐怖と好奇心で溢れかえっていた。「絶対何か出る」「こんなところに一人で行くなんて怖い」「早く帰りなさい」


ケンは、村を探索しながら、視聴者と積極的にコミュニケーションを取っていた。廃屋の中を探索したり、村人の墓地を訪れたり、彼は常に視聴者をハラハラさせ、興奮させた。


そして、ついにその時が来た。古びた神社に足を踏み入れたケンは、そこで奇妙な絵画を発見した。絵画には、超巨大な台風の中、異形の者たちが村を襲う様子が描かれていた。その絵画をカメラに収めようとした瞬間、突風が吹き荒れ、神社の明かりが消えた。


真っ暗闇の中、ケンは何かが近づいてくる気配を感じた。背後から、冷気が流れ込んできた。恐怖に震えながら、彼はカメラを背中に向け、ゆっくりと振り返った。


そこには、絵画に描かれていたものと瓜二つな異形の者が立っていた。それは、人間とは言い難い、異様な形をした生物だった。大きな黒い目がギョロリと輝き、鋭い爪が光っていた。


異形の者は、ゆっくりとケンに近づき、彼の顔を見つめた。その瞬間、ケンは意識を失った。


ライブ配信は、そこで途絶えた。視聴者たちは、パニック状態に陥った。警察に通報され、捜索隊が村へと向かったが、ケンと異形の者の姿は見つからなかった。


その後、村では再び奇妙な現象が起こり始めた。夜になると、村から悲鳴のような声が聞こえたり、異様な影が動き回ったりするようになった。人々は、再び、村が呪われているのではないかと恐れた。


ケンが撮影した映像は、インターネット上で拡散され、都市伝説として語り継がれるようになった。そして、その村は、再び「呪われた村」として、人々から恐れられるようになった。





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誰もいない音楽室の秘密

 かつて、その小学校の音楽室は、不気味な噂の的となっていた。古びたピアノから漏れ出す妖しげなメロディ、誰もいないはずの部屋から響く足音、そして夜になると現れるという白い影…。誰もが恐れおののく場所だったのだ。


そんな中、音楽部の生徒・美咲は、その噂を信じていなかった。ただ、古いピアノの音色が心を惹きつけるのだった。放課後、誰もいない音楽室で、美咲はピアノの前に座り、静かに鍵盤を弾き始めた。


すると、突然、窓の外から物音が聞こえた。恐る恐る窓の外を見ると、そこには大きな猫がいた。その猫は美咲を見つめ、何か訴えかけるように鳴いているようだった。


美咲は猫に近づき、そっと撫でた。するとその猫は大きく鳴き、美咲の腕に擦り寄ってきた。その瞬間、美咲はこの猫が特別な存在であることを感じたのだ。


以来、美咲は毎日音楽室を訪れ、猫と過ごすようになった。その猫の名をメロディと名付けた。メロディは、美咲がピアノを弾くと、いつもそばにいて、優しい目で美咲を見つめていた。


ある日、美咲はメロディの首輪に小さな鈴がついていることに気づいた。その鈴には、古代文字のような見慣れない文字が刻まれていた。


美咲は、その文字を解読しようと図書館で調べ始めた。そして、ある本の中で、その文字が古代文明の言語であることを知った。その文明は高度な音楽の知識を持っていたという。そして、その人々は音楽を通して宇宙と交信していたというのだ。


美咲は、メロディがまさにその古代文明の末裔であり、その体内に音楽が宿っていると確信した。


ある夜、美咲はメロディと共に、古いピアノの前に座った。そして静かに鍵盤を奏でると、メロディは奇妙な鳴き声を上げ始めた。しかしやがてその声は、まるで宇宙の彼方から聞こえてくるような神秘的な美しいメロディへと変わっていった。


その瞬間、美咲は自分が特別な存在であることを感じ、メロディと共に宇宙とつながっているような感覚に包まれたのだった。


以来、音楽室は、もはや恐ろしい場所ではなくなった。そこには、美咲とメロディ、そして宇宙を繋ぐ美しい音楽が響き渡っているのだった


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鳴き声の正体

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いつまでも残る足音

 いつも通り、放課後、陽が暮れ始めた体育館裏の雑木林。いつものように一緒に帰るはずだった美咲とあかり。あかりは、用事があるから先に帰るね、と美咲に告げる。少し寂しい気持ちになった美咲は、いつものように一人、雑木林を抜けて帰ることに。


いつもの道なのに、今日はどこか雰囲気が違う。木々の葉がざわめき、鳥の鳴き声がいつもより大きく聞こえる。足早に歩こうとする美咲だが、どこからともなく、誰かの足音が聞こえてくる。振り返っても誰もいない。


「気のせいか…」


そう自分に言い聞かせながら、美咲は足音を無視して歩き続ける。しかし、足音は次第に大きくなり、美咲のすぐ後ろまで迫ってくる。恐怖に震えながら、美咲は一目散に走り出す。


雑木林を抜け出し、街灯のある道に出ると、足音はようやく聞こえなくなった。ホッとしたのもつかの間、美咲は背後から誰かに呼ばれるような気がした。振り返ると、そこには何もいなかった。


次の日、学校であかりに昨日のことを話すと、あかりは顔色を変えた。「もしかして、あれは…」と、あかりは昔、おばあさんから聞いた話を美咲に語る。


それは、この雑木林には、昔、迷い込んだ子供がそのまま住みついてしまったという話。その子は、今でもこの林を彷徨い、他の子供を連れ込もうとしているのだという。


美咲は、背筋が寒くなった。昨日の足音は、その子のものだったのかもしれない。


それからというもの、美咲は一人では決して体育館裏の雑木林を通らなくなった。そして、あかりと一緒にいる時でさえ、あの日の足音が聞こえてくるような気がしていた。


物語は全てフィクションです。

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鏡の中の真実

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漁師たちの恐怖

 太平洋の荒波を悠々と航海する漁船の上で、老船長の顔が青白く光っていた。「昔、俺の爺さんが言ってたんだが、この海にはな、幽霊船が漂ってるって」


若き日の船長は、そんな爺さんの話を馬鹿にしていた。しかし、今、彼はその言葉を信じ始めていた。


それは、ある嵐の夜のことだった。視界は真っ白けで、船は荒波に翻弄されていた。突然、レーダーに奇妙な影が現れた。通常の船舶とは異なる、不規則な動きをするその影は、まるで幽霊のように漂っていた。


嵐が過ぎ去り、視界が開けた時、そこには想像を絶する光景が広がっていた。それは、古びた帆船だった。船体は深い傷跡だらけで、まるで海底で長い間漂流していたかのようだった。


恐怖に震えながら、船長は船に近づいた。船の甲板には、海藻が絡みつき、無数のフジツボが付着していた。そして、船室から聞こえてくるのは、奇妙な機械音が響き渡るだけだった。


船長は、恐る恐る船室に入ると、そこには信じられない光景が広がっていた。船室の壁には、奇妙な文字や図形が描かれており、床には血痕のような赤い染みが広がっていた。そして、船室の中央には、奇妙な装置が置かれていた。それは、まるで古代の機械のような、見たこともないものであった。


船長は、この船がただの幽霊船ではないことを確信した。この船は、何か恐ろしい秘密を隠している。そして、その秘密を解き明かそうとした者は、必ず不幸になると言い伝えられている。


船長は、この恐ろしい体験を他の漁師たちに話した。すると、彼らもまた、似たような体験をしたことがあると語り始めた。


深海の底から、不気味な光が輝いているのを見た。

嵐の夜、海中に引きずり込まれそうになった。

船のコンパスが狂い、方角が分からなくなった。

これらの話は、漁師たちの間で語り継がれ、深海の幽霊船は、海の怪物のように恐れられるようになった。


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鳴き声の正体

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森の奥の沼と、隠された真実

 夕暮れが迫る中、風もなく静まりかえった森の小道。新緑が目に眩しい季節だったが、15歳の健太の心はどこか落ち着かない。今日は、クラスの友人たちと、噂の「河童の沼」へ探検に来たのだ。


「おいおい、マジであんなもんいるわけないだろ」


友人たちの言葉に、健太は苦笑いを浮かべた。でも、どこか引っかかるものがあった。地元の古老から聞いた話では、この沼には悪質な河童が住み、人間を水の中に引きずり込むという。


「でもさ、昔っからそんな噂あったよな」


別の友人が、懐中電灯を照らしながら言った。


「ただの噂だろ。怖い話に尾ひれがついて大きくなっただけさ」


そう言いながらも、皆、足早に進んでいく。


沼に近づくと、生暖かい湿気が肌を包み込んだ。水面は、まるで鏡のように周囲の森を映し出している。その光景は、どこか不気味で、健太の背筋をゾクゾクさせた。


「うわっ!」


突然、友人の一人が叫んだ。茂みから現れたのは、血まみれのナイフを持った男だった。男は、形相を変えて友人たちを追い詰める。


「みんな、早く逃げろ!」


健太は、咄嗟に茂みの中に逃げ込んだ。男は、友人を一人ずつ惨殺していく。その様子を、茂みの中から見ていることしかできなかった。


数時間後、警察が到着し、男は逮捕された。男は、この沼で数年前から行方不明になっている少女を殺害し、遺体を隠していたのだという。そして、河童の噂を流すことで、事件を隠蔽しようとしていた。


事件後、健太は心に深い傷を負った。楽しいはずの探検が、恐ろしい殺人事件に巻き込まれてしまったからだ。そして、彼はあることに気づいた。


「河童の噂は、単なる噂じゃなかったんだ。誰かが、意図的に流したんだ」


男は、自分の犯行を隠すために、河童の噂を利用したのだ。そして、その噂を信じていた自分たちを、彼は遊び道具のように扱っていた。


事件から数年が経ち、健太は大人になった。彼は、あの日のことを決して忘れない。そして、噂の恐ろしさを身をもって知った。


「噂は、人を傷つける。そして、人を殺す。」


健太は、この経験を胸に、これからも生きていく。


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小さいオジサンの話

 ある日、小学生の女の子は家の中で小さな妖精のような小人オジサンを見つけた。最初は彼がとても親切で、消しゴムを拾ってくれたり、探し物を見つけてくれたりしていた。女の子は彼に感謝し、彼との交流を楽しんでいた。



しかし、少しずつ女の子は彼に対して違和感を抱くようになった。彼の目が怖い光を宿しているように見え、彼が微笑むたびに不気味な気配を感じた。そして、ある日の夜、女の子が寝る前に彼の存在を感じたとき、彼の顔が一瞬だけ歪んでいるように見えた。彼女は恐怖で身震いし、彼が持っていたナイフの光沢に気づいた。


女の子は彼が本当に危険な存在であることを悟った。彼はもう、優しい小さな友達ではなく、恐ろしい存在になっていた。彼の妖精のような外見は偽りであり、彼の中には殺意や狂気が渦巻いているのだと感じた。彼女は一刻も早く彼を家から追い出そうと決意した。


翌日から、女の子は彼との接触を避けるようになった。彼が声をかけてきても、彼女は無視し、彼との距離を置くようにした。彼女は彼の存在を家族に話すこともできず、彼女自身が彼を見た唯一の人間であったため、一人で何とかするしかなかった。


数日後、女の子はついに彼を家から追い出すことに成功した。彼女は勇気を振り絞り、彼に家を出ていくように伝えた。何をされるか判らない状態なので、あまり事を荒立てたくはなかったのだ。

彼は驚きの表情を浮かべながらも、従順に彼女の言葉に従った。


彼が去った後、女の子は安堵の息をついた。彼の存在から解放されたことで、彼女の心には穏やかさが戻ってきた。しかし、彼の姿が脳裏に焼きついていることには変わりなかった。


それ以来、女の子は決して誰にも彼のことを話さなかった。彼女は自分自身に言い聞かせるように、彼がただの幻だったのだと思い込んでいた。しかし、彼の残した恐怖の痕跡は彼女の心に深く刻まれていた。

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現代に蘇る顔なし怪人

 ある夏の夜、大学生の美咲は、アルバイト先の古書店で閉店作業をしていた。いつものように店を閉め、一人残って整理をしていると、店の外から物音が聞こえた。恐る恐る窓の外を見ると、そこには顔のない男が立っていた。男は真っ白な顔に黒く光る瞳だけを持ち、美咲をじっと見つめていた。


美咲は恐怖に震えながら、店の中に逃げ込んだ。しかし、男は店の中に侵入し、美咲を追いかけてくる。必死に逃げ回る美咲だったが、男に追いつかれ、肩を掴まれた。その時、男は美咲の顔に手を触れ、何かを奪い取ったような感覚がした。


翌日、美咲は鏡を見て絶叫した。自分の顔が、昨日の男の顔と同じ真っ白な顔に変わっていたのだ。美咲はパニックになり、警察に駆け込むが、誰も美咲の話を信じてくれない。


一方、街では顔のない男が目撃される事件が相次ぎ、人々の間には恐怖が蔓延していた。そして、ある日、美咲は新聞で衝撃的な記事を見つける。それは、顔のない男が、人々の顔を取り換えているという内容だった。


美咲は、自分が顔のない男にされたことを確信する。そして、自分の顔を取り戻すため、男を探し始める。しかし、男は姿を現すことなく、美咲は絶望の淵に立たされる。

そんな中、美咲は偶然、顔のない男の正体を知る人物と出会う。その人物は、美咲と同じように顔を変えられてしまった被害者だった。そして、その人物から驚くべき事実を告げられる。


顔のない男は、実は人間ではなく、古代から存在するある種のエネルギー体だった。そのエネルギー体は、人間の負の感情を吸収することで成長し、最終的には世界を支配しようと企んでいた。そして、人々の顔を取り換えるのは、そのエネルギー体にとって、人間の心を支配するための手段だったのだ。


美咲と他の被害者たちは、顔のない男との戦いを決意する。彼らは、それぞれの持つ能力や知識を結集し、巧妙な罠を仕掛ける。そして、ついに顔のない男を追い詰めることに成功する。


激しい戦いの末、顔のない男は倒された。しかし、その直後、街は謎の光に包まれ、すべての被害者の顔が元に戻った。顔のない男は、単なる存在ではなく、人類の心の闇を映し出す鏡だったのかもしれない。

川の守護神

 夏の日、私たちは友達と一緒に川遊びを楽しんでいた。


小さな村にある川は、透明度の高い清流で、私たちは水中の小石や魚を追いかけながら楽しんでいた。しかし、その日は前日の大雨の影響で、川の水位が急上昇していた。


私たちは無邪気に遊んでいたが、突然、川の流れが激しくなり、私は足元をすくわれて水圧に苦しむ中、必死に手足を動かし、生き延びようと必死に戦った。しかし、どんなに頑張っても、水の中での私の姿勢は不安定で、息苦しさと共に絶望感が広がっていった。


その時、突如として、私の頭上には巨大な手が現れた。その手は私をしっかりと掴み、水面に引き上げてくれた。私は助かったのだ。しかし、手を引いてくれたのは、まさかの河童のような存在だった。


河童は、頭には水草が生え、緑色の皮膚を持つ生物だ。その姿は恐ろしさとも不思議さとも言えないものだったが、私にとっては生命の糸をつかんでくれた救世主だった。


河童は私を岸辺まで連れて行き、そのまま消えてしまった。私は驚きと感謝の念で胸がいっぱいになり、友達に助けられたことを話すと、彼らも驚きの表情を浮かべた。


それからというもの、私たちは川で遊ぶ際には、河童への感謝の気持ちを忘れずにいる。川遊びの後は必ずお礼の言葉をささやき、河童の存在を心に刻むようになった。


私たちの村では、河童が川の守護神として大切にされている。川遊びの事故が減り、村人たちは河童に対して敬意を払い、川の恵みに感謝するようになった。


あの日の出来事は、私にとって一生忘れられない思い出となった。川の増水で巻き込まれた私が、河童に助けられたことで、命が救われたのだ。


今でも川を見るたびに、あの河童のような存在が私たちを見守っているのだと感じる。

深夜の一件

 深夜、街の灯りが次第に薄れていく頃、老朽化したタクシーは、港へと続く道を走っていた。運転席に座る老年の運転手、松田は、ラジオの音量を少しだけ上げ、静まり返った車内に響くニュースの音を頼りにハンドルを握っていた。


「本日の未明、港湾地区にて、不可解な失踪事件が発生。行方不明者は、この港で働く作業員数名。警察は、原因を現在調査中とのことです。」


ラジオから流れるニュースに、松田は思わず身震いした。港湾地区といえば、彼がよく仕事で訪れる場所だ。最近は、不審な噂が絶え間なく耳に入っていた。


「最近、港で奇妙な影を見かけるって噂があるんだよな…」


そんなことを考えながら、松田は港の入り口に到着した。客待ちをしていると、遠くに人影が見えた。近づいてみると、それは若い女性だった。


「あの、街まで送ってください。」


女性の表情はどこか青白く、不安げに見えた。松田は何も言わずに頷き、女性を乗せた。


「あの…、この港って、何か噂があるって聞いたんですけど…」


女性は、恐る恐る尋ねてきた。


「ああ、そうですね。最近、変な噂が多いらしいね。でも、気にしない方がいい。気のせいかもしれない。」


松田はそう言って、女性を安心させようとした。しかし、彼の心には、どこか落ち着かないものが残っていた。


車は、港から離れる様に進んでいく。街灯も少なく、あたりは真っ暗だ。女性は、窓の外をじっと見つめ、一言も発しない。


「あの…」


突然、女性が声をかけた。


「何か、後ろにいるみたいなんですけど…」


振り返ると、後部座席には誰もいなかった。しかし、女性は、まるで何かが見えるかのように、震えながら話した。


「後ろに…、黒い影が…」


松田は、背筋が凍りつくのを感じた。彼は、急ブレーキをかけ、車を停めた。


「落ち着け!気のせいだ!」


松田は、そう言い聞かせようとしたが、彼の心はすでに恐怖に支配されていた。


その時、車の窓ガラスが、内側から叩かれた。


「うわああああ!」


女性は、悲鳴を上げて、車のドアを開けて飛び出した。松田は、何が起きたのかわからず、ただ呆然と座っていた。


しばらくして、我に返った松田は、車から降りて周囲を見渡した。しかし、女性の姿はどこにもなかった。


その夜、松田は、港で起きた不可解な失踪事件のことを思い出した。そして、自分が体験したことを、誰かに話そうと思った。


しかし、誰も彼の話を信じるはずがない。彼は、ただ一人で、その夜の出来事を心に刻み続けることになった。


後日談


翌朝、港湾地区で、松田が乗せた女性のものと思われる遺体が発見された。遺体には、何の傷もなく、ただ顔色が青白くなっていたという。警察は、事件の捜査を進めているが、いまだに謎は解けていない。


そして、港では、今もなお、奇妙な噂が囁かれている。


「深夜の港には、黒い影が現れる…」


「その影に近づいた者は、二度と戻ってこない…」

耕作放棄地の怨霊 泥田坊

 かつて、この土地は実りの象徴だった。太陽の光を浴び、大地の恵みを育み、人々の食卓を豊かにする。しかし、時代の流れとともに、その輝きは失われていった。耕作放棄地と化し、雑草が生い茂り、廃墟と化した田んぼは、まるで忘れられた魂のようだった。


そんな土地に現れたのが、泥田坊だった。昔話に出てくる泥田坊とは少し違う。彼は、この土地で命を育み、人々に食料を提供していた大自然の怨念そのものだった。


泥田坊は、人間たちの傲慢さを目の当たりにした。食料の大量生産、安い輸入品、そして、耕作放棄地を生み出した農業政策。彼らが大切にしてきた大地が、これほどまでに蔑ろにされていることに、怒りを覚えた。


彼は、夜な夜な耕作放棄地から現れ、周囲の農作物を枯らし、家畜を病ませた。人々は原因不明の現象に恐れ慄き、専門家を呼んだり、除霊を試みたりしたが、泥田坊の怒りは収まらなかった。


やがて、泥田坊の仕業はエスカレートしていった。スーパーマーケットの野菜に奇妙な病気が発生し、食料の安全性が疑われるようになった。人々はパニックに陥り、食料の買い占めに走り、社会は混乱に陥った。


政府は、この事態を収拾するため、様々な対策を講じた。農地再生事業を打ち出し、耕作放棄地を減らそうとしたが、根本的な解決には至らなかった。専門家たちは、泥田坊のような存在は科学的に証明できないと結論付け、人々の不安を煽るだけだった。


結局、この問題は未解決のまま、人々の記憶から徐々に消えていった。耕作放棄地は、依然として放置され、泥田坊は、その中で静かに怒りを溜め続けているのかも知れない。





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気弱な二人

 川底の洞窟に住むのは、コタロウという名の河童だった。他の河童たちと違い、コタロウは臆病で、大きな声で鳴くことも、子供をさらうこともできなかった。そのため、他の河童たちからはいつもバカにされていた。


一方、村にはケンタという男の子がいた。ケンタはクラスでいつもいじめに遭い、学校に行くのが怖い日々を送っていた。ある日、いつものように川で一人泣いているケンタの姿を、コタロウは洞窟から見ていた。


コタロウは、ケンタの孤独に共感した。自分も仲間はずれにされているという共通点を感じたのだ。そして、勇気を振り絞って、水面から顔を出した。


「あの…、一緒に遊ばない?」


コタロウの声は小さかったが、ケンタにはしっかりと聞こえた。ケンタは驚き、同時に嬉しかった。誰にも話したことがない自分の気持ちを、コタロウは分かってくれている気がした。


それから、コタロウとケンタは秘密の友情を育んでいった。ケンタは、コタロウに自分の悩みを打ち明け、コタロウは、ケンタに自分のできる限りのことをしてあげた。コタロウは、川底から珍しい石を拾ってきてケンタにプレゼントしたり、ケンタが怖い夢を見た時には、川底から優しい歌声を届けてくれたりした。


しかし、彼らの友情は長くは続かなかった。ある日、ケンタがいじめっ子に追いかけられているところを、コタロウが目撃した。コタロウは、ケンタを助けようと、水面から飛び出した。


「ケンタ!こっちへ来い!」


コタロウの声は、いつもより大きく、力強かった。ケンタはコタロウの声に導かれ、川に飛び込んだ。二人は川底の洞窟に隠れ、いじめっ子たちから逃れた。


しかし、その出来事が原因で、コタロウの居場所がバレてしまう。他の河童たちは、コタロウが人間と仲良くしていることを怒り、コタロウを洞窟から追い出した。


コタロウは、一人ぼっちになった。ケンタも、コタロウがいなくなったことを悲しみ、学校にも行けなくなってしまった。


それから数年後、大人になったケンタは、故郷の川を訪れた。そして、川底からコタロウの声が聞こえた。


「ケンタ、元気にしてたかい?」


ケンタは、思わず涙があふれた。コタロウは、変わらず優しい声で話しかけてくれた。


「コタロウ、ずっと探してたんだ。」


ケンタは、コタロウにこれまでのことを話した。そして、こう言った。


「僕、もう怖くない。だって、君がいつもそばにいてくれるから。」


コタロウは静かに頷いた。そして、こう言った。


「僕も、ケンタがそばにいてくれて嬉しい。でも、もう昔のように一緒に遊ぶことはできないんだ。」


「どうして?」


「僕が人間と仲良くすると、他の河童たちが怒るんだ。」


ケンタは、コタロウの言葉を聞いて、心が痛んだ。しかし、すぐにこう言った。


「そんなの、おかしいよ。友達と仲良くするのが、どうして悪いんだ!」


コタロウは、何も言わずに微笑んだ。そして、こう言った。


「ケンタ、君は強い。だから、きっと大丈夫だ。」


それから、二人は長い時間、言葉を交わした。そして、別れの時が来た。


「また会おうな、ケンタ。」


「うん、また会おう。」


ケンタは、川を後にして、村へと戻っていった。コタロウは、再び洞窟に戻った。


コタロウは、これからも一人で暮らすことになるだろう。しかし、ケンタとの友情は、コタロウの心に永遠の光を灯し続けていた。


見知らぬ世界

 あの日、いつものように車を運転していた。目的地まではあと少し。いつもの道を走っていたはずなのに、いつの間にか見知らぬ風景が広がっていた。地図を確認しても、ここがどこなのか全く分からない。


焦りを感じながら車を走らせると、街並みはどこか懐かしいような、でも確実に見たことのないものだった。通り過ぎる車のナンバープレートは見たこともない文字列。信号の色も、赤と緑ではなく、青と黄色だった。


これは夢だろうか?それとも、自分がどこかへ飛ばされてしまったのだろうか?


恐怖と好奇心で心が揺れ動きながら、車を運転し続けた。道端には見慣れない植物が咲き誇り、空には見たことのない形の雲が浮かんでいた。


日が暮れ、辺りは暗くなった。街灯の光は、どこか不気味で、まるで異世界のようだ。私は車を停め、しばらくの間、外を眺めていた。


その時、ふと、子供の頃に読んだ絵本の一節を思い出した。「迷った時は、北極星を見上げなさい」。


すぐに車を降り、空を見上げた。すると、そこには見慣れた北極星が輝いていた。わずかな希望を感じ、私は車を再び発進させた。


しばらくすると、かすかに車の音が聞こえてきた。そして、見慣れた街並みが現れた。私は思わず車を停め、外に出て深呼吸をした。


「帰ってきた…」


安堵感と同時に、不思議な感覚に包まれた。この世界が夢だったのか、それとも本当に別の世界に行って来たのか。


再び車を運転し始めたが、どこか現実感が薄い。街並みは同じはずなのに、何かが違う。信号の色は、さっきまで青と黄色だったのに、今は赤と緑に戻っていた。


もしかしたら、私はまだ別の世界にいるのかもしれない。それとも、この世界は、私が見た異世界と少しだけ重なり合っているのかもしれない。


そんなことを考えながら、私は車を運転し続けた。

海辺の闇に潜むもの

 満月が夜空に煌めき、波の音だけが響く静かな夜。防波堤に腰を掛け、釣り糸を垂らす二人の男。いつものように、たわいもない話に花を咲かせながら、静かに時を過ごしていた。


「最近、この海で変な噂が広がってんだってな。」


Aが、どこか不気味な笑みを浮かべながら話しかける。


「そういや、聞いたことがある。幽霊船が出るって話だ。」


Bも、少し背筋を伸ばしてAの方を見る。


「へえ、幽霊船か。そんなもん、ただの噂だろ。」


そう言いながらも、Bの心には一抹の不安がよぎる。


しばらくして、二人の釣り糸に反応が来た。同時に、二人の顔には笑顔が戻る。しかし、その笑顔は、すぐに恐怖に変わった。


釣り上げられたのは、見たこともない形の魚。銀色の鱗が光り、鋭い牙がむき出しになっている。まるで、深海の怪物のような姿だった。


「なんだこりゃ!」


Bが声を上げる。


その瞬間、海面が荒れ始めた。轟音を立てて波が打ち寄せ、二人の足元を洗う。そして、突如として、二人の目の前に巨大な影が現れた。


それは、まるで船のような形をしていたが、その姿はぼやけていて、実体があるのかないのか分からない。船体からは、不気味な光が漏れており、二人の心を震わせた。


「幽霊船だ!」


Aが絶叫する。


二人は、恐怖に打ちひしがれ、その場から逃げ出そうとする。しかし、どこかに足を取られ、身動きが取れない。


その時、幽霊船から、甲高い声が聞こえてきた。


「この海から出ていけ!」


その声は、二人の心に突き刺さり、全身を震わせた。


恐怖に耐え切れなくなったAとBは、気を失ってしまった。


翌朝、二人は浜辺で目を覚ました。昨日の出来事は、まるで悪夢のようだった。しかし、二人の手に握られていたのは、昨日の夜釣った奇妙な魚。


二人は、あの夜の出来事を決して忘れることはないだろう。

ビルの谷間の山姥

 かつて深い山奥に住まう存在だった山姥。しかし、時代とともに開発が進み、彼女の居場所は狭まっていった。今は都会の片隅で、ひっそりと暮らしを続けている。


窓からは、煌めくネオンが見える。かつての見渡す限りの山々は、高層ビルに遮られてしまっている。山姥は、夜になるとベランダに立ち、かつての住処を懐かしみながら、涙を流す。二度と戻れない、あの懐かしい山々。


ある夜、偶然出会った少年との出会いが、山姥の心に光を与える。少年は優しく話しかけ、山姥の話に耳を傾けてくれた。山姥は、初めて自分の存在を認めてもらえたような気がした。


しかし、その幸せな時間は長くは続かなかった。少年が引っ越すことになり、再会することができなくなってしまう。山姥は、毎晩ベランダで少年の帰りを待ち続けたが、二度と姿を見ることはなかった。


やがて、孤独に包まれた山姥は静かに息絶え、その霊は、かつての住処である深い山々へと帰っていったのだという。



物語は全てフィクションです。

古都に伝わる、狐と神社の不思議な縁

 かなり昔の話、とある古都に、人々から恐れられてきた九尾の狐がいました。その狐は、美しい女の姿に変身し、人々を惑わせ、時には悪戯を仕掛けることもあったと言います。


その狐は、都の外れにある古びた神社によく現れたそうです。その神社には、大きなケヤキの木があり、狐はよくその木の上から都を見下ろしていました。人々は、狐がケヤキの木に宿っていると信じ、神社に近寄ることを恐れていました。


ある年の夏、都に大雨が降り、神社の古い本殿が倒壊してしまいました。人々は、狐の仕業だと噂し、ますます神社から遠ざかるようになりました。しかし、不思議なことに、その年の秋、ケヤキの木にはたくさんの実がなり、都近くの地域はかなりの豊作に恵まれたのです。


それからというもの、人々は狐を恐れながらも、どこか感謝の気持ちを抱くようになりました。そして、毎年秋には、ケヤキの木の下で狐に感謝の祈りを捧げるようになったといいます。


狐と神社の不思議な力


時が流れ、多くの年月が過ぎました。狐の姿を見た者は誰もいなくなり、伝説となって語り継がれるだけとなりました。しかし、神社のケヤキの木は、今もなお都を見守り続けています。


ある夜、満月が夜空を照らしていました。神社の古い石段を、一人の老人がゆっくりと上っていました。老人は、子供の頃からこの神社に親しみ、狐の伝説を聞いて育ちました。


石段を上りきると、ケヤキの木の下で立ち止まり、深呼吸をしました。すると、老人の耳に、かすかな声が聞こえてきたのです。「ありがとう」。それは、まるで狐の声のようでした。老人は静かに目を閉じ、ケヤキの木に向かって感謝の言葉を捧げました。


翌朝、村の人々は、ケヤキの木の下に、美しい狐の石像が置かれているのを発見しました。石像は、まるで生きているかのように、都を見つめていました。人々は、狐の霊が、村の守り神として、永遠にこの地に残り続けることを確信しました。


それからというもの、神社には、狐の石像を慕って、多くの人々が訪れるようになりました。人々は、石像に触れると心が安らぎ、願いが叶うという言い伝えを信じています。


今でも、夜になると、ケヤキの木の下から、狐の鳴き声が聞こえてくることがあると言います。それは、狐が、今もなお、この神社と都を見守り続けている証なのかも知れません。


あなたの街にも、狐の伝説はありますか?


この物語は、あくまでもフィクションですが、日本には、狐にまつわる様々な伝説が残されています。あなたの街にも、狐の伝説があるかも知れません。

夕暮れの悪夢

 まだ僕が小学生だった頃、夕焼けが茜色に染まるまで、公園で友人たちと鬼ごっこをして遊んでいたあの日。

日が暮れるのが早く感じられ、お母さんに怒られる前に急いで家に帰ろうと、友人たちに別れを告げた。


「じゃあな!」


そう叫び、いつものように公園の出口に向かう。しかし振り返ると、先程まで一緒に遊んでいたはずの友人たちの姿はどこにもなかった。


「あれ?みんなもう帰っちゃったのかな?」


少し寂しい気持ちになったが、自分も急いで帰ろうと歩き出した。

しかし、公園を出ようとしたその時、背後から誰かが僕の名前を呼ぶ声がした。


「〇〇!ちょっと待って!」


それは、さっきまで一緒に遊んでいた友人の声だった。嬉しくなって振り返ると、そこには見覚えのない男が立っていた。男は不気味な笑みを浮かべながら、手招きしながらこう言った。


「どこへ行くんだい?一緒に遊ぼうよ」


男の顔は影に隠れてよく見えなかった。

僕の全身に恐怖が駆け巡り、無意識に出口に向かって走り出した。男が追いかけてくる気配がある。必死に走るが、すぐに男に肩を掴まれてしまった。


「お願いだから放して!」


そう叫びながら男の手を振り払い、公園の奥へと走った。薄暗い遊具のトンネルの中に隠れると、心臓がバクバクと鳴っていた。

しばらく隠れていると、男の足音が遠ざかっていくのが聞こえた。


「よかった…」


安堵したのも束の間、背後から夏とは思えない冷気が漂ってきた。恐る恐る振り返ると、そこには真っ白な顔の男が四つん這いで近づいていた。男は何も言わず、口らしきものを大きく開いて僕を見つめていた。


「うっ…」


恐怖のあまり、僕はそのまま気を失ってしまった。


目が覚めたのは、次の日の朝の自宅のベッドの上だった。

昨日の出来事はまるで悪夢のようだった。しかし、あの時に感じた冷気や、だらしなく開いた口、男の白い顔は、今でも鮮明に覚えている。


それ以来、僕は夕暮れの公園に一人では行かなくなった。そして、あの日の出来事を誰にも話すことはなかった。


夜のドライブ

 大学の夏休み、3人の友人たちは、満天の星の下、夏の夜空をドライブすることにした。運転席には、太郎、助手席には花子、そして後部座席には健太が座っていた。


車は、街明かりが遠ざかるにつれて、周囲は漆黒の闇に包まれていった。ラジオから流れる軽快な音楽も、いつしか静けさに飲み込まれ、車内には3人の呼吸音だけが響く。

「ちょっと、太郎。この道、地図に載ってないんじゃない?」

花子が、カーナビの画面を指さしながら言った。太郎は、にやりと笑って、

「へへ、秘密のルートだよ。絶対楽しいからさ!」

と、無邪気に答える。しかし、健太の表情はどこか硬かった。

しばらくすると、車は深い森の中へと入っていった。木々は生い茂り、月の光も届きにくい場所。不気味な静けさが、3人の心を蝕んでいく。

「ちょっと、誰かいる…?」

花子が、後ろを振り向いた。後部座席の窓の外には、白い影が立っていた様に見えた。一瞬のことだったが、気のせいかと思って目を凝らすと、影は消えていた。

「気のせいだよ、気のせい…」

太郎は、そう言いながらも、ハンドルを握る手が震えているのがわかった。

やがて、車は古いトンネルへと差し掛かった。トンネルの中は灯りも無く真っ暗だった。

「うわっ!」

突然、後ろから冷たいものが肩に触れた。花子は、思わず叫び声を上げた。太郎が振り返ると、後部座席の健太が訝しげな顔で見つめ返す。

「な、なんだよそれ…」

太郎は、顔色を変えて、アクセルを踏み込んだ。トンネルを出ると、そこは開けた場所だった。

「もう、怖くて帰りたい…」

花子は、震えながらそう言った。太郎と健太も、心の中では同じことを思っていた。

しかし、車は一向に目的地に着かない。道はどんどん複雑になり、迷路のようだった。

「もしかして、オレたちは…」

健太が、恐る恐る口を開いた。

「呪われたんじゃないか?」

その言葉に、太郎と花子は顔を見合わせた。

そして、次の瞬間、車は急ブレーキをかけて止まった。フロントガラスには、白い女の顔が張り付いていた。

「ああああああ!」

3人は、絶叫して気を失ってしまった。

翌日、3人は発見された。車は、森の奥深くでひっくり返っており、3人は意識不明の状態だった。病院で目を覚ました3人は、昨日のことを鮮明に覚えていた。

「あれは一体なんだったんだ?」

「幽霊…?」

「まさか…」

3人は、互いの顔を見合わせ、言葉を失った。

それぞれ3人の足首には、手形がくっきりと付いていた。

それからというもの、3人は夜間のドライブをすることはなくなった。

謎のメール

 ぞくぞくと背筋が冷える出来事が続いた。 

ある晴れた日の午後、会社員の田中健太は仕事の合間にメールをチェックしていた。すると、知らない差出人から「重要な情報」というタイトルのメールが届いていた。

健太は不思議に思いながらも、慎重にメールを開くことを避けて削除した。 


しかしその後、健太の周りで奇妙な事故が次々と起こり始めた。

電車のドアに肩を強く引っかけられたり、歩いている最中に自転車に突っ込まれたり、仕事中に机の上の書類が顔に直撃したりと、次第に危険な出来事が重なっていった。 

健太は友人に相談したが、誰も彼の話を真剣に受け止めてくれなかった。


そんな中、健太はふと間違って削除したメールの存在を思い出す。慎重に開いてみると、そこには不気味な写真とともに「あなたは私の存在を無視した。それは大変な過ちだ。私はあなたを見逃さない」という文章が書かれていた。 

健太は恐怖に怯えながらも警察に相談したが、特に手立てはないと言われてしまう。

その後も、車のブレーキが効かなくなったり、スーパーマーケットで商品が頭に落ちてきたりと、健太の周りで奇妙な出来事が続発した。


 健太は自分が命を狙われているのではないかと恐怖に取り付かれ、家に引きこもるようになった。そして、ある日突然、健太の自宅のドアが開いたのだ。

健太は心臓が張り裂けそうになるような恐怖を感じながら、ゆっくりとドアへと近づいた。ガタガタと震える手でドアノブに手をかけ、恐る恐るドアを開ける。


そこには、誰もいなかった。


しかし、部屋の中は物音がした形跡があり、明らかに誰かが侵入した形跡があった。

戸棚が開けられ、引き出しの中身が散乱している。さらに、壁には血のような赤い液体が飛び散っていた。


健太はパニックになり、すぐに警察に連絡しようとしたが、電話は繋がらない。

恐怖に震えながら、彼は家から飛び出した。


街をさまようが、どこへ行けば安全なのか、もはや彼は分からなくなっていた。

気が付くと、彼は会社の近くに来ていた。


恐怖に突き動かされるように、健太は会社へ侵入する。

そして、差出人の分からないメールを調べた。


必死に何かを探そうとするが、何も見つけられない。

その時、背後から冷気が走り、健太は振り返った。


そこには、真っ白な顔をした男が立っていた。男は不気味に笑みを浮かべ、こう言った。「もう逃げられないよ」


男はゆっくりと健太に近づき、そして・・・


次の日の朝、出社してきた社員が正気を失い、放心している健太を見つけた・・・





赤い目の影

 漁師町に住む若き漁師、藤田(ふじた)は、ある嵐の夜、沖合で赤い目を光らせる奇妙な影を見かけました。その影は、まるでクジラのように、荒波の中を悠々と泳いでいたそうです。藤田は、不吉な予感がして近づこうとしませんでしたが、影の方から奇妙な音楽が聞こえてきたため、つい見入ってしまいました。


まるで魂を揺さぶるような旋律が、風と共に運ばれてきました。それは美しくも妖しい音色で、藤田の心を引き寄せるように響いていました。彼は船を停め、体を浪に預けながら、その音楽に耳を傾けました。

しかし、気がついた時には、その影は忽然と姿を消していました。藤田は驚きましたが、同時に安堵も感じました。その赤い目の影が姿を消したことで、彼の心も一時の安らぎに包まれたのです。


それからというもの、藤田は漁に出るたびに、その赤い目の影を思い出してしまい、心身ともに疲れ果ててしまいました。夜の海には、その赤い目の影の幻影が浮かび上がり、彼を苦しめるのです。


ある日、藤田は仲間の漁師、岡田(おかだ)と共に海に出ました。二人は黙々と仕事を進めていましたが、藤田は心の奥底でいつもの不安を感じていました。すると、岡田が声をかけてきました。


「藤田、最近、お前どうしたんだ?いつも浮かない顔をしてるし、仕事も手抜きだぞ」


藤田は少し動揺しながらも、素直に答えました。「すまない、岡田。最近、あの赤い目の影のことが頭から離れなくてな。あの音楽を聴いた時から、心が落ち着かなくなったんだ」


岡田は苦笑いしながら、藤田の肩を叩きました。「お前、それってただの妄想だろう。海の中にはいろんなことがあるし、気を張りすぎだよ。そんなことに縛られず、自由に漁を楽しめよ」


藤田は岡田の言葉を受け止め、少し気持ちが軽くなりました。彼は心に決意を固め、赤い目の影の幻影にとらわれることなく、今を生きることを決めたのです。


その日から、藤田は自分自身を奮い立たせ、漁に打ち込むようになりました。彼は海を愛し、魚たちと共に生きることの喜びを再び感じることができました。


そしてある日、藤田は海の中で美しい景色を見つけました。そこには青く澄んだ海と、魚たちが踊るように泳いでいました。彼はその光景に心を奪われ、感動の涙がこぼれ落ちました。


藤田は、赤い目の影の幻影が自分の心を縛っていたことに気づきました。彼は自由になり、自分の心の声に耳を傾けることで、本当の幸せを見つけたのです。


それからというもの、藤田は自分の船を乗りこなし、魚たちと共に舞い踊るように海を駆け巡りました。彼の笑顔は周りを明るく照らし、仲間たちもそれに応えるように笑顔で漁を進めていったのです。


藤田は、あの赤い目の影の幻影が忽然と消えたことで、自分自身を取り戻すことができたのでした。


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